捨て猫

あれは どしゃぶりの 夜だった
着の身 着のまま 家を捨て
上りの列車に とび乗って
車窓(まど)に頬つけ 泣いていた
そして あんたの アパートに
ころがりこんで 春ふたつ
ひとつの毛布に くるまれば
怖いぐらいに 暖ったかだった

どこへ行ったの あんたはどこへ
三日三晩も 泣いたけど
どこへ行ったの あんたはどこへ
捨て猫みたいに 淋しいよ

あれは縁日の 晩(よる)だった
洗いざらしのシャツを着て
おもちゃの指輪を左手に
子供みたいに はしゃいでた
そんな幸福(しあわせ) おままごと
数えてみても 夏ふたつ
いまでは ひとりの部屋の中
雨がポツリと 降りだしてきた

どこへ行ったの あんたはどこへ
嫌いになっちゃ いないから
どこへ行ったの あんたはどこへ
捨て猫みたいに 淋しいよ
どこへ行ったの あんたはどこへ
三日三晩も 泣いたけど
どこへ行ったの あんたはどこへ
捨て猫みたいに 淋しいよ
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