雨がもえている

あゝゝ……雨だね
雨がもえている
しとしともえている
昔がもえている
しとしともえている
おんなひとりが死んだまゝ生きて
おんなひとりが生きたまゝ死んで
時が流れて雨になったのさ
あゝゝ……雨だね
よこはまは 雨だね

黒船、ガス灯、異人さん、文明開化のよこはま村は、
それはもう、にぎわっていたものでございました。
でも……その異人さんに囲われる女には、
にぎわいも無縁のものでございました。
らしゃめん……。ひえびえとした嫌な呼び名でございます。
私のかあさんもらしゃめんで、私を生むと直ぐにみまかり…。
異人の墓にうずめられたと言う噂だけ…。
雨の匂いの様に、恨みがましく残っているのでございます。

あゝゝ……雨だね
雨が泣いている
しとしと泣いている
さだめが泣いている
しとしと泣いている
時を恨んで死んだまゝ生きて
この世恨んで生きたまゝ死んで
とけて真っ赤な雨になったのさ
あゝゝ……雨だね
よこはまは 雨だね
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