泡沫の依り代

いる筈もない僕は確かにここにいて
しくしくと胸を痛めるんだ
みられたくない姿をずっと隠して
でも本当は誰かに

肯定してほしいそんな気持ちに
不透明な身体がふわふわ浮いて
誰にも見えないけれど
ねぇ、ここに居るんだよ

そんなさけび声はきっと誰にも届かない
彼岸の花が咲いた此の世には
僕の居場所なんてもうどこにも無いんだ
そう何にもないんだ

毎夜液晶に映る霊能者でも
僕の姿はどうやら見えないらしい
そんな見えない僕へふいにあてられた視線の先

涙を浮かべている女の子
心配になって声をかけてみる
(どうせきこえやしないけど)
どうしてきみは泣いてるの?
「すごくうれしくって」

きみは僕の手を握って瞳を合わせた
ふわふわに浮いた身体を離さないよう
力強くそれでいてやさしさをもって
そっと笑いかけてくれた

本当は見えちゃいけないんだ
本当はいちゃいけないんだ
それでもきみは僕の手を離さない
もう満たされたんだ
だからきみは、元の場所に

「あなたは私の光になってくれた
瞳に色彩を与えてくれたの
暗い世界に閉じられたままでいるのなら
このままいっそ連れ去って」

泡沫のような僕とのろわれたきみで
ちいさな手を繋いでくるくると
彼岸の花が咲くこの世を渡って
音もない遥か遠い世界へ駆けて
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