太陽がいっぱい

初めて 都会へ 出て来た年の夏
友達に さそわれて 海を見にいった
磯部は 若い 男や女の子達で
何もかもが 眩ぶしすぎた

友達のヨットの上で 友達の彼女が
ヨットよりも白い手で 麦藁帽子を
海にむけて涼しげに 振っていたけど
俺にもやさしいひとが欲しかっただけさ
その日の 海は 青く深く澄んでいたけど
俺のナイフは 海の底に沈んでいた

友達の彼女とふたりだけで泳いだ日
砂浜の上でくちづけをした

昼下りの磯辺は 風と波と砂とばかりで
ふたりが離れたら 海猫が 泣いていた
彼女は微笑むけど 何んだか口惜しくなって
口びるを噛みしめて ぬぐっても ぬぐっても
ナイフで裏切った 傷口が赤すぎた
俺にも やさしいひとが欲しかっただけさ

その日の 空は 白く高くぬけていたけど
俺のナイフは 海の底に錆びていただろうか
×