無垢の砂~「パリは燃えているか」によせて~

時間という大きな土のかたまりは
さらさらとふるいにかけられて
静かに地面に落ちていく
物言わぬ無名の人たちは
静かな白い砂粒だ

そこはどんな国だったか どんな言葉を話したか
どんな神様を拝んだか
それはどこにも残らない
平和を愛し生きた人々は
静かな白い砂粒だ
いつか海の底に集まり永遠の眠りについている

ふるいにかけられた石ころは
時間の外に捨てられた
ごりごりと醜い鉄くずは
捨てることさえはばかられた
どぎつく彩られた王冠も
金文字の刻まれた墓石も
永遠の砂浜には決して帰ることはない

いつからか時間の外に捨てられた
石ころや鉄くずや王冠や墓石を
人々は歴史と名付けた

物言わぬ白い砂は永遠の時間
平和を愛し生きた人々の美しい言葉はいつか
海の歌に変わる
いつの日か歴史という大きな墓標が
無残に朽ち果てた時
人々は海の歌をうたう日をむかえるだろうか
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