夏は来ぬ

卯の花の 匂う垣根に
時鳥(ほととぎす) 早もきなきて
忍音(しのびね)もらす 夏は来(き)ぬ

五月雨(さみだれ)の そそぐ山田に
早乙女(さおとめ)が 裳裾(もすそ)ぬらして
玉苗(たまなえ)ううる 夏は来ぬ

〔橘(たちばな)の 薫るのきばの
窓近く 蛍とびかい
おこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ〕

楝(おうち)ちる 川辺の宿の
門(かど)遠く 水鶏声(くいなこえ)して
夕月(ゆうづき)すずしき 夏は来ぬ

〔五月(さつき)やみ 蛍飛びかい
水鶏(くいな)鳴き 卯の花さきて
早苗(さなえ)うえわたす 夏は来ぬ〕
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