悠久想春歌

想春に咲き誇るメロディ
天と地との狭間へと走る
想春に咲き誇るメロディ

広大な砂漠をラクダを曳いて
一人の男が伝え聞いた
都はうるわし遥か西方の
乾いた大地をゆるがす律動を

やがてあまねく大陸に響き渡り
人に恵みをもたらして
町は輝きを増した

想春に咲き誇るメロディ
四分(しぶ)に一度の太鼓を蹴り上げ
情熱をつむぎだすリズム
あでやかな付点の打鍵が

想春に咲き誇るメロディ
歌姫が壇上を彩り
町の騒ぎになじめぬ者も
一人静かに耳を傾けた

時代はその男に委ねられ
周りの誰もが真似をした
恋(いと)しさせつなさ抱きしめながら
想いをつのらせ愛し合えばいいと

“ありふれたもの”と賢者は嗤いながら
皆も時代遅れと忌み
そして忘れていった

想春に咲き誇るメロディ
町の騒ぎがまるで嘘のよう
情熱をつむぎだすリズム
枯れ果てるまで自制はきかない

想春に咲き誇るメロディ
満ち足りるは無きに等しく
自由を求め旅に出る独り
男の行方案ずる者はわずか

十余年の冬が過ぎまた春がくる
本気で愛した者たちが再び花を咲かせる

そしてまた返り咲くメロディ
子供たちが目を輝かせ
そしてまた流行りだすリズム
まぶしくて私は目をそむける

悠久に咲き誇るメロディ
懐かしむ者 はじめて知る者
あの日々はただ砂と消え
形だけがただ残る

あのときのひずみと反動
知らないことは罪でなくとも
同じ憎しみ繰り返すのなら
知ってほしいあの男の名を

悠久に咲き誇るメロディ…
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