手品師の心臓

さあカードを裏返すよ
よく見てごらん 裏返すよ
手品師はそう言ったきり
カードを持つ手をとめてる

カードの裏に何があるのか
息をつめてみつめる子供
カードの裏の恐るべきからくりが
ゼンマイ仕掛けで地球をこわすのか?
違う! 違う!

さあカードを裏返すよ
今度こそは本当に
手品師は長い指を翻した
目にもとまらない早業

カードの裏に貼りついている
それは何だ? 息をしている
赤くて黒い ヌメヌメと柔らかい
知らない星の生き物のよう
違う! 違う! それは彼の心臓

手品師は言った これはきみのもの
ぼくの命 きみにあげる
指先でそっと 触れてごらんほら
こわくないよ 抱いてごらん

抱いたら次は 口に入れてみて
きっときみは 夢中になる
からくりはそこだ それが彼の罠
だけど子供は何も気づかない

さあもうきみは逃げられない
このぼくの心臓から
手品師はそうつぶやいて
突然すべての動きを止めた

ゼンマイが切れ 動かない手品師が
転がる床に 矢印がある
お帰りはこちら 指し示す方向に
出口のドアがない 壁だけがある
ここは ここは
逃げていった彼の夢の迷路の中