図書館にて

大きな窓から差す
柔らかな光の中で
パサージュ論を読む君の横顔に
じっと見とれていた

真白な夏の雲が
山際の空に咲いた
水浅黄色の君のTシャツの
白い腕が眩しい

或いはベンヤミンを語る
君は強いアウラに満ちて
或いは賢治を語る
君は大いなる慈愛(アガペー)

図書館という大宇宙に
二人きり浮かんでた
あの時

窓から見える水辺の
睡蓮が音も無く咲いた
あたかも五次方程式のように
心も恋も解けない

大きな時間(とき)の粒に
緩やかに身を横たえ
E=mc2 と僕が書けば
恋は光速を超えた

或いは未来を語る
君は不安と勇気に揺れて
或いはふるさとを語る
まなざしは母に似ていた

図書館という大海原に
二人きり浮かんでた
あの時

遙かな時間(とき)は過ぎて
図書館に僕は独りで
正義についてのディベートを
読みながら
まだ君を想っている

大きな窓から差す
柔らかな光の中で…
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