茶いろの鞄

路面電車でガタゴト走り
橋を渡れば校庭がある
のばした髪に帽子をのせた
あいつの影がねえ見えるようだわ
人は誰でも振り返るのよ
机の奥の茶色の鞄
埃をそっと指でぬぐうと
よみがえるのよ 懐しい日々

学生服に煙草かくして
代返させてサボったあいつ
人間らしく生きたいんだと
私にだけは ねえやさしかったわ
もう帰らない遠い日なのに
あの日のままね茶色の鞄
大人になって変わる私を
恥ずかしいよな気持にさせる

運ぶ夢などもう何もない
中は空っぽ茶色の鞄
誰も自分の倖せはかる
ものさしなんて持ってなかった
誰かが描いた相合傘を
黒板消しでおこって拭いた
あいつも今は色褪せてゆく
写真の中で ねえ逢えるだけなの
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