くらやみ橋から

(台詞)
昭和十年頃の事やったそうです
倉敷の方から出て来た女学生が一人
与謝野晶子みたいになるんや言うて 昼間は学校へ
夜はカフェで働いてましてん
世の中えらい不景気な時代で仕事にあぶれた人がおおて
カフェにのみにくる男達も
みんなどことのう 破れかぶれみたいな人たちばっかりでした
そんな時代やったから
田舎から出て来た女学生が
泥まみれになるのにそう長い時間はかかれしませんでした
「あの娘(こ) 酒でものましたってみいな
誰とでも すぐやで」
そんな噂をたてられながらも
その娘(こ)がつくる短歌とやらは
東京の偉い先生にも認められるものやったそうです
くらやみの この世の橋をのぞいたら
朝もくらやみ 昼もくらやみ
作りためた 柳ごおり いっぱいの短歌
この橋から 投げすててしもた日
まるで雪のように その娘(こ)の命も散ってしもたそうです
それ以来この橋
くらやみ橋と呼ばれてますねん

からころから からころから
二十そこらを 生きて来て
くらやみ橋から何捨てる
生きていたってしょうがない
死んでみたってしょうがない
夢を捨てれば軽くなる
心捨てれば軽くなる
どこへ行(ゆ)きましょ
これから一人……

からころから からころから
星のふる夜に 駈けて来て
くらやみ橋から何捨てる
生きていたってしょうがない
死んでみたってしょうがない
胸にざわざわすきま風
涙かわいてすきま風
どこへ行(ゆ)きましょ
これから一人……

生きていたってしょうがない
死んでみたってしょうがない
昔すててもしょうがない
あしたすててもしょうがない
どこへ行(ゆ)きましょ
これから一人……
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