“凡才なりの戦い方”で人々を魅了し続けるアーティスト、全19曲入りアルバム!

 2024年5月15日に“imase”が1st Album『凡才』をリリースしました。音楽を始めた20歳から23歳までの約3年間で作り出した楽曲たち。実家の2段ベッドの下、独りで作り出したベッドルームミュージックから、数々のCMや映画のタイアップ楽曲まで、全19曲が収録されております。インタビューでは、自身を凡才だという彼の“凡才なりの戦い方”について、アルバム収録曲を中心にじっくりお伺いしました。また、実経験や自分の思いはほとんど描かれない歌詞。その物語や主人公の制作方法とは…。今作と併せて、imaseの歌詞トークをお楽しみください!
(取材・文 / 井出美緒)
Happy Order?作詞・作曲:imaseMy loving!めんどくさいな 全部
仕事の顔に着替えて Work 働きだしたらヒーローさ
最後の1時間が死ぬほど長く感じるのは お前だけじゃないから
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マジカルバナナみたいな歌詞の書き方をしています。

―― imaseさんの楽曲はサウンドの心地よさはもちろん、歌詞人気も非常に高いです。ご自身も作詞はお好きですか?

歌詞はすごく大事にしていて作詞ももちろん好きなのですが、実は制作における優先順位は3、4番目ぐらいなんです。語感のよさによってメロディーをより引き立てる補助的な役割というか。まずはリズムとメロディーを重視していますね。

―― 人生でいちばん最初に書いた歌詞やポエムというと?

ポエムとかは書いたことはなくて、最初から「歌詞」でしたね。デビュー前、ショート尺でSNSに投稿した「n1ght」という楽曲がおそらく初めての作詞だと思います。

―― リリースされていない楽曲ですね。どんなフレーズがあったのでしょうか。

(歌を口ずさむ) <後悔はないと 解ける愛の 答えを見たいと 求めあっても~♪>…という。韻を踏んで、音の気持ちよさを意識した楽曲にしていたと思います。

―― さらに軌跡を遡りまして、音楽に感動した“初動”の記憶というと何が思い浮かびますか?

たしか高校生の頃ですね。King Gnuさんのライブ映像を観て、「すごい、かっこいい!」と感動したのが最初だった気がします。

―― そこからご自身が音楽制作をするまで、かなり展開が早かったのですね。

そうですね。聴くのも歌うのも好きではありましたが、20歳のときに友達がギターを購入したことがきっかけで僕も弾き語りを始めて。そこからオリジナル楽曲を作るまでの期間も短かったなと思います。

―― その短期間でどのように作詞の軸を培われたのでしょうか。

楽曲を制作する上で、いろんな楽曲の歌詞を見て勉強しています。とくにユーミン(松任谷由実)さんや星野源さん。ポップスのアーティストの方々を参考にさせていただいています。

―― “imase”らしい歌詞の特徴を言語化するなら、どのようなものだと思いますか?

とくに初期は抽象的であることを意識していました。そのほうが普遍性を保ちやすくて、より多くの方に聴いていただけるのかなと。ただ、そこはタイアップ楽曲などを制作していくなかで徐々に変化もしていて、楽曲によっては具体的・直接的にするのもおもしろいなと思うようになりました。

語感を大事にしているという点はずっと変わらなくて。たとえば一人称を<わたし>じゃなくて<あたし>という歌い方にしたり。語尾に<~の>とか<~わ>とつけたり。先ほど挙げた星野源さんもそういう書き方をされていることが多くて、参考にさせていただいている部分もありますが、個人的に好きな表現法ですね。

あと、実はとてもポジティブな歌詞は少ない気がします。ネガティブな面を少し見せることにより、逆にポジティブな気持ちも見えてきたり、少しだけ背中を押される気持ちになるような歌詞が特徴的だと思います。

―― 今、次々とヒット楽曲を生み出し続けておられますが、制作を始めた当初からどこかこういう未来は見えていたのでしょうか。「絶対に売れる」という自信というか。

いえいえ(笑)。まったく見えていませんでした。自信もなかったですし、デビュー曲の「Have a nice day」も、最初はサビ部分しかなかったんです。なので、まず「ちゃんとフル尺を作ってリリースできるのだろうか」というところから不安でした。「この先、曲を作り続けていけるのだろうか」とも思っていましたし。

―― 最初の手ごたえはどのタイミングでしたか?

初めて「n1ght」を投稿したときにTikTok内で聴いていただけて、そのときに少しだけ手ごたえを感じたかもしれません。投稿に対して、「新しい曲も気になる」とコメントしてくださる方たちもいらっしゃって。そういうものが原動力になって、「いろんな曲を作ってみよう」と思うようになっていきましたね。

―― また、imaseさんと言えば、歌声・歌い方も特徴的ですね。

やはりファルセットがいちばんの個性になっているのかなと思います。R&Bやソウルではよくありますが、ポップスではなかなか珍しいかなと。一方で、地声は倍音の成分が多く出ていて温かみがある。烏滸がましいですが、だからこそ裏声の伸びやかさや煌びやかさとのギャップに繋がっているのが僕の声の特徴なのかなと思います。

―― 曲づくりでは何が最初に見えてくるのでしょうか。

はじめにジャンルを決めることが多いです。「こういう曲調が求められているのかな」とか「今、自分が作りたいのはこのジャンルだな」など。そこからリズムとコード感を決めて、メロディーを乗せて。最後の作業が歌詞なんですよね。なので、ジャンル、リズム、メロディー、の順で構成して、最終的に歌詞に繋がっていく感覚で作っています。

―― どんなときに歌詞を書きたくなることが多いですか?

書きたくなるというよりは、作業部屋で曲作りをするタイミングで一気に書いてしまうので、逆に考えごとをしながら生まれることは少ないですね。

―― たとえば何か落ち込むことがあったとか、ご自身の感情が動いたタイミングで書くわけではなく。

photo_01です。

はい、そこはあまり影響しません。もう完全に制作は制作ですね。というのも、制作日がかなり限られているんです。主にライブの準備やメディアの稼働があって。それ以外は、お風呂かトイレ、食事と寝るぐらいです(笑)。なので最近は、空いているタイミングに制作時間を作って、一気に作業しています。昔はドライブをしている時に歌詞を思いついたりしていたのですが、今は集中した状態で制作をしています。

―― ご自身の内面をさらけ出すというよりも、完全にフィクションの物語を描いたり、タイアップ楽曲で商品に寄り添ったりするほうが書きやすいのでしょうか。

そうですね。タイアップに関係なく、何か自分でテーマを設けて書くことがほとんどです。今作でも1曲目の「BONSAI」だけは特殊なのですが、それ以外はほとんどフィクションですね。自分の思いを書くことは少なくて、むしろまったく実体験を交えないほうが作品としては作りやすいです。

―― 実体験を交えずに、このスピード感でこの曲の量を生み出していけるのはすごいです。

だからこそ悩まずに書けている気もします。多分、実体験で得たボキャブラリーだけで作っていたらまったく違うジャンルになっていただろうし、逆に書けていないかもしれません。たとえば「Happy Order?」はマクドナルドさんとのタイアップソングですが、マックでアルバイトはしたことがないですし、そもそもアルバイト経験自体も半年ぐらいなので…。

また「Nagisa」には少し小悪魔的で強い女性像を書いているのですが、これも実体験だったら書けていないですね。1番のAメロに<ネオンを纏い お洒落気取り 馴染めないな 都会は 行きつけの飲み屋に 落ち着いた私は 貴方に出会って>というフレーズがあるじゃないですか。でも僕はお酒は一切飲めないですし(笑)。

―― 逆に実体験を使わず、各曲のこんなにリアルな物語たちをどのように生み出しているのですか?

実は、基本的にはマジカルバナナのような歌詞の書き方をしています(笑)。たとえば「Rainy Driver」は、曲調やメロディーから頭の<首都高>というワードだけを思いつく。首都高、といったらドライブ。都会をドライブしている、といったらデート。隣の席には好きな<君>がいる。じゃあそこに<雨>が降って来たらどうだろう。ちょっとまわりが暗くなる。すると、ふたりの関係性も喧嘩か何かで不穏になっていくのかもしれない…。

このように連想していくなかで風景と心情を自然とリンクさせていったことで、この曲の<泣きじゃくり出した空が 針を並べて落とすような 少し冷たく響く⾳が 僕らを囲む>というフレーズが生まれました。どんどん連想して作っていくと物語ができあがります。

―― そのマジカルバナナのための引き出しの多さは、どこで培われたのでしょう…。

…わからないです(笑)。映像からではない気がします。やはりたくさんのアーティストの方々の歌詞からですかね。あと、極端な言い方をすると「運」でもあるんです。メロディーを活かすために、語感優先の言葉の置き方・使い方をするじゃないですか。すると、化学反応的に新しい表現の仕方が生まれることが多いんです。

―― なるほど。たとえば語感のよさで<雨>というワードを入れてみたら、良好とは言えないふたりの関係性も表現できたり。

そうですね。するとそこからまた、「じゃあ晴れたらどうだろう?」と連想して、展開的にふたりの気持ちもスッキリしていくのかな…と物語や表現が生まれていきます。語感に合わせた歌詞にしているおかげで、自分でも予想していなかったものができあがっていくのかなと思いますね。

―― ちなみに歌うときにはその主人公になりきるような感覚なのでしょうか。

あまりないですね。歌っているときは、発音や聴かせ方しか意識していなくて、主人公の気持ちに入り込んだりすることはないんですよね。とにかく語感を大事に。なのでストーリーを忘れて、ライブで歌詞を間違えてしまうことも…(笑)。

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