最後に「これでいいんだ」って主人公が納得できる救いを入れたかった。

―― タイトルの「アンビバレント」というワードにはどのようにたどり着いたのでしょうか。

歌詞を書く上でアニメサイドの方々から、「OPでは壬氏(ジンシ)と猫猫(マオマオ)の距離感に焦点を当ててほしい」というリクエストがあったんですね。そういう視点で作品を読ませていただいたら、ふたりはすごく絶妙な距離感で。答えを出しすぎないようにしながらも、どういう位置にいるのかわかる歌詞にしたいな思ったんです。まだ何も動き出してないけれど、ちょっと生まれ始めている種子感もあるといいなって。

でも、壬氏本人はまだ自分ではっきり気持ちに気づいていない。そして、その芽生えている何かを否定したいけれど、肯定して早く楽になりたい気持ちもある。その相反する心からインスピレーションをもらって「アンビバレント」というワードにしました。

―― アニメ『薬屋のひとりごと』はキャラクターも魅力的ですし、物語もおもしろい設定で、だからこそ何を切り口に歌詞を書くか難しそうですね。

そうなんです。私も最初は、薬というワードなのか、謎を解いていく様子を描くのか、主人公・猫猫の人柄に関するものにするか、どこを切り口にするかすごく迷ったんですね。だから「ふたりの距離感」というテーマを与えていただいたのがありがたかったですし、そこに焦点を絞ったらスムーズに書いていくことができました。

猫猫はおそらく壬氏の気持ちに気づいていなそうだったので、それだったら想いを寄せている側の心を描いたほうがみんな共感できるかなと思って、壬氏の目線で書くことにしました。壬氏の気持ちはすごく書きやすかったですね。

―― Uruさんには、猫猫と壬氏はそれぞれどんな存在に映りましたか?

猫猫はとにかく自分の軸がしっかりしているひと。場所が変わっても、自分のままでいられる。でも天狗になったり、知識をひけらかしたりせず、ずっと一定で。すごく強くてブレないひと。あと、ちゃんと相手の気持ちも慮れるし、人間味が溢れる面もあるのに、どこか淡白なところもあって、そういうギャップが刺激的だなと思いました。これは近くにいたら私も惹かれるだろうなって。

壬氏はほとんど私の目線と一緒なんだろうなと感じました。「凹凸」って言葉があるじゃないですか。その凸凹がピタッとハマるふたりなんだろうなと思います。お互いにないものを補い合っているような。

―― ふたりの距離感を描く際、印象的だったシーンやセリフはありましたか?

「なんとなく自分は猫猫に対する気持ちがあるのかな…?」と気づいてきた壬氏が、猫猫にちょっとアピールのようなことをするんですね。でも猫猫はプイッって感じで。それに壬氏がカーっとなっているシーンは何回もあったので、可愛いなと思って(笑)。そこは歌詞のなかで活かしたいなと思いました。

―― いちばん最初にできたフレーズはどこだったのでしょう。

<碧い、碧い、その瞳に僕はまだ映らない>ですね。猫猫の碧い目はやっぱり魅力的で。

―― サビは、1番の<その瞳に僕はまだ映らない>が、2番で<その瞳は僕をまだ映さない>、最後は<その瞳に僕は映らないけど>と変化していくのが印象的です。

そこの変化は大事にしましたね。お互いの位置も描きたかったですし、<僕はまだ映らない>で終わっちゃうとこの曲自体が完結できない気がして。気持ちのやり場というか、想いが流れていく方向はちゃんと作ってあげたくて。最後に「これでいいんだ」って主人公が納得できる救いを入れたかったんです。

アニメファン以外の方が聴くときにも、自分のそばにいる憧れのひと、好きなひとへの想いを重ねられるように。相手の瞳に映る・映らないは最終的には、もうどうでもよくて、<そのままの君が好きなんだ>って改めて気づくことができる。そういうふうに1曲のなかで完結できる歌詞にしたいなと思いました。

―― また個人的には、<何かに躓いた時には 君ならどうするかな、なんて思ったり もう少しやってみようなんてさ 思えたりするんだよ、>というフレーズ、とくに共感しました。ピンチに陥ったときって憧れのひとを思い出しますよね。

photo_02です。
Photo by Taichi Nishimaki

私もそうなんです。身近にいるひととか、友人とか、今まで出会ってきた学生時代のひととか、自分の考えと正反対のひととか、よく思い出します。「自分は今、こんなふうに考えて視野が狭くなっているけれど、あのひとならどんなふうに思うだろうな…」とか、すごく想像するんですね。ひとりの考えだと固執してしまうけれど、そこに新しい要素が入った瞬間に、「は!」っとなるというか。

たとえば、ライブの話で言うと、私は今までライブって減点法式にしていたんです。ものすごい目標を抱えていって終わったあとに、「こうできなかった、これもできなかった、マイナス…」ってだんだん点数が減っていく。でもスタッフさんが、「ライブのときは0からスタートで、加点方式にすると気持ちも上がっていくから!」っておっしゃってくれて。

私はそれを聞いて「なるほど!」と思えたんです。やっぱり減っていくと落ち込むじゃないですか。でも、そういう考え方もあるんだ!って。それは私にとって大きな影響を与えてくれましたね。自分じゃない言葉ってすごく大事で、誰かからの言葉だからこそスーッと入ってくることってあるなぁと思います。

―― では「アンビバレント」でUruさんがとくに好きなフレーズを教えてください。

<好きなものに夢中な猫みたいで>ですね。猫猫の性格とも名前ともリンクしていますし。アニメで放送される最初のワンコーラスに、好きなものにガーッ!っとなる主人公の魅力をどうしてもギュッといれたかったので。

―― ちなみに以前、Uruさんの書く楽曲の主人公像についてお伺いした際、「自分に似ていて、臆病であまり人との交わりが得意でない性格」だとおっしゃっていましたね。それはご自身とともに変化している部分もありますか?

うーん…変化していきたいところなんですけど、やっぱり軸にはその臆病な私がいるんですよね(笑)。多分、変えるのは無理で。でもそういう根っこを持ちながらも、いろんなやり方というか、引き出しを増やすことはできてきたかなって。「この間の経験をちょっと引き出してみようかな…」みたいな、そういう肉付けの仕方はできるようになってきた気がします。

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