繊細さや弱さも、明るく歌うことで肯定ムードにしたかった。

―― 年齢や経験を重ねるにつれ、歌詞面で変化してきたところはありますか?

吉岡 私は毎アルバムに1~2曲とかなので、そんなに曲数を書いているわけではないんですけど、年々あんまり考え込まず、気負わないようになっているかもしれないですね。今書いている曲も、歌っていて違和感のない言葉を選んでいる感じで。より素直にやってみたいというか。書きまくっているリーダーはどうですか?

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水野 5~6年ぐらいのスパンで軸が変わっている感覚ですね。どんな歌を作るにしても、世の中をどう生きるか、どう他者と接するか、自分の人生を歩んでいくに従ってゴロッと変わるので。たとえば20代では、「いつか死んじゃうから、生きている間に大切にしよう」みたいなタイプの曲を書いていたんです。でも家族ができたり、子どもが生まれたりして、自分の人生以上のことを考えざるを得なくなってきた。それに伴って、残された側の曲を書くことが多くなっていったり。

あと、さっき聖恵が言ったように、僕も同じ歌だけど10年前と違う感覚で捉えるようになっていることが多々あります。「帰りたくなったよ」を作ったときに想定していた“帰りたい場所”は変わって、今は息子のことを考えたりするし。「YELL」も学生たちが歌い続けてくれたことによって、僕らにとってもまったく違う意味の曲になったし。そういう変化は多いですね。

―― 今作「うれしくて」の歌詞についてファンの方がおっしゃっていたことも印象的で。いきものがかりの「笑顔」という曲に<わかりあうことは難しいけど 分かち合うことは僕にもできる>というフレーズがあり、「うれしくて」の<“わかりあうこと“だけじゃ拾えない “わかりあえないこと“を大事にして>というフレーズはそこにも通じていると。これは“わかりあうこと”に対する向き合い方の変化でもありますね。

吉岡 「笑顔」よりも「うれしくて」のそのフレーズは意味深だよね。

水野 他者尊重みたいなものをどうやって実現できるだろうか、ということをずーっと言い回し的に考え続けているんですよね。世の中で起きていることって、お互いの違いを尊重し合えないような出来事ばかりじゃないですか。どちらかというと責め合う言葉のほうが多くある。だからこそ、「違いを尊重し合うこと」を説教くさくなく、よりうまく伝えられないかなって。

そんななかで今回、プリキュアという作品のタイアップソングを作るにあたり、プリキュア制作陣の方も同じようなことを大事にしたいとおっしゃっていて。しかも個性豊かなプリキュアたちが出てくるから、ひとつになるとか、同一化する感じではなく、バラバラだけどお互いに認め合っている。そこにすごく共感したんですよね。

たとえば、僕と聖恵でもすべてをわかりあっているわけではないんですね。いまだにわからない部分はあるし、きっとぶつかる部分もあるはず。人間なので。そういう違いも含め、聖恵が聖恵であり、僕が僕である所以で。そことお互いにうまく付き合っていくことが、家族でも友だちでも恋人でも大切なんだろうなと、<“わかりあうこと“だけじゃ拾えない “わかりあえないこと“を大事にして>というフレーズを書いたんだと思います。

吉岡 説明するって難しいよね。リーダーはやっぱりすごく考えているじゃないですか。でも歌うと捉え方がもっと自由だから、それがいいんだよね。<“わかりあえないこと“を大事にして>という部分も、「大事にしてね」ってお願いしているようにも聞こえるし、「大事にしていこう」って自分に言っているようにも聞こえる。考えている以上に幅があってくれるんです。

―― 聖恵さんが歌うことによって、歌詞の持つ意味がより広くなっていくところもありそうですね。

水野 すごくありますね。押しつけがましさがなくなる瞬間が。歌詞にはどうしても自分の考えが色濃く入ってしまいがちなんですけど、そこがうまく消されるというか。誰のものでもなくなる感覚、歌が歌としてみんなのものになる感覚が心地いいんですよ。「ああ、もう、広がった」みたいな。それをできるのが聖恵の声のすごさだと思います。

吉岡 (小さい声で) それならよかったです…。

水野 歌詞ってそういうところがありますね。「こういうことを考えているんです」って伝えたいだけなら、それを文章にすればいい。そうじゃなくて、それを歌としてみんなが扱えるもの、どうとでも取れるものに昇華するのが、歌詞を書くという行為なのかもしれないなと思います。

―― 水野さんは曲作りの際、まず映像をイメージすることが多いそうですね。「うれしくて」はどんなものが曲の核になったのでしょうか。

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水野 とにかく“プリキュア”という作品自体がヒントになっていて。単純にキャラクターの映像だけではなく、プリキュアを追いかけている小さなお子さんたちの憧れの視線。そしてかつて小さかった子たちが20年経った今、その輝きを懐かしく思いながら、励みにしているような気持ち。そういう映像が頭に浮かんでいました。なかなか言語化しにくいんですけど、映画のなかできらきら光っているものをイメージして書いていきましたね。

あと、ファンファーレというか、祝祭、祝福みたいなものを表現したい気持ちもありました。サビは<うれしくて きらきら 飛びあがれ ひらひら>って短いフレーズが続くんですけど、そのひとことでフワッって光が飛ぶようなイメージ。みんなが普通に使う、何でもないような言葉なんですけど、それが大事で。作っているときは聖恵の声をイメージして、彼女が<うれしくて>ってひとこと歌っただけで、みんなのなかにフワッっと想像できるものがあるように、というところも大事にしました。

―― 聴いたとき、まさにその「フワッ」が伝わってきました。また、聖恵さんの声がワントーン明るいような印象も受けまして。

吉岡 たしかにいつもよりトーン明るくいきたいなって意識しましたね。とくに2番Aメロで描かれている繊細さや弱さも、明るく歌うことで肯定ムードにしたかったかな。この曲はデモテープ段階ではもっとシンプルで、静寂というか、芯の強い歌という印象だったんです。だけどアレンジで我々史上最大編成のオケになって、なおさら明るさが大事だなと。言葉にはしていなかったけど、リーダーと同じようなことを感じていたのかもなと、今聞いていて思いました。

―― 聖恵さんが「うれしくて」でとくにお気に入りのフレーズというと?

吉岡 まずファンの方も注目してくださったという<“わかりあうこと“だけじゃ拾えない “わかりあえないこと“を大事にして>はすごくポイントだと思っています。あとやっぱり2番Aメロの<ひとりきりの寂しさを知ること それはきっと宝物で 絆へのフィラメント 誰もがみな 孤独のこどもたち>という弱い部分を歌うところが私は好きかもしれないですね。最後には<夜の闇さえも 照らせるから “わたしたち“なら>という決意がちゃんとある歌にしたいなと、静かに燃えていました。

―― 水野さんはいかがですか?

吉岡 意外と聞く機会なかったね。

水野 えー…。いやぁ…。答えとして正しくないかもしれないけど、全体としてOKになるみたいな歌詞かもしれない。「ここはうまいこと言えたな」というだけでは完成しなくて。フレーズごとに見ると、どれもなんでもないようなことが書いてあるんだけど、通して聴いたときにそのなんでもない表現が効いてくるみたいな。

たとえば1番Aメロの<泣けてきちゃう>ってひとことも、別に珍しい言葉ではなくて。だけど全体で見ると、ここで<泣けてきちゃう>と言ってくれたことによって、後半で散りばめていく決意がより際立っていく感じ。弱さがありながらも立とうとしているんだな、相手を認めようとしているんだなって。だから全体としていいバランスで書けたなという歌詞である気がします。

―― すべてが必要不可欠なピースなんですね。

水野 でも…長いですよね!

吉岡 長いよ! まぁ「長いよね」って話はこれまで何回も、というか、何年もあると思うんですけど…。

水野 (笑)。

吉岡 それでもこれってことは、もうこれなんだなって(笑)。

水野 ちょっとあまのじゃくなところもあって。今って短い曲が主流じゃないですか。イントロもなくて、いかに3分以内に収めるかみたいなことがトレンドだから。むしろ絶対に5分超えてやる!みたいな(笑)。まぁそれは冗談ですけど。正直、そういうところもあります。

吉岡 必要な長さなんだなって思っていますよ。

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