テーマは“王道”ラブソング!月9ドラマ『真夏のシンデレラ』主題歌&挿入歌!

 2023年9月6日に“緑黄色社会”がニューシングル「サマータイムシンデレラ」をCDリリースしました。今作の収録曲はフジテレビ系月9ドラマ『真夏のシンデレラ』主題歌&挿入歌。インタビューでは、メンバーの長屋晴子さんと小林壱誓さんにお話を伺いました。ドラマ自体が“王道ラブストーリー”だからこそ、試行錯誤しながら共作で作り上げた“王道ラブソング”への思い。また、それぞれの歌詞の特徴や作詞論、長屋晴子の歌声の持つ力、曲作りのインスピレーションを受けるもの、などなどじっくりと語っていただきました。作詞のスタンスが異なるおふたりの歌詞トークをお楽しみください。
(取材・文 / 井出美緒)
サマータイムシンデレラ作詞:長屋晴子・小林壱誓 作曲:穴見真吾8月のカレンダー 夏の終わりが近付いた 胸が騒ぐ
やめてまだ終わらないでよ 「好き」をまだ伝えていないのに
ああ ようやく答えに会えた
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王道を成立させるのは、どんな歌でも表現できる長屋の声だから。

―― おふたりが人生でいちばん最初に歌詞を書いたのはいつ頃でしたか?

長屋 私は小学6年生ぐらいですね。当時、大塚愛さんが大好きで、シンガーソングライターという言葉を覚えて、ぼんやり憧れていました。とくに大塚愛さんの「ネコに風船」に感動して。猫の気持ちを<あたし>として歌っているんですけど、それに影響を受けて初めて書いたのが「たんぽぽ」というタイトルの歌詞です。

小林 かわいいね。

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長屋 なんか<誰かに踏まれても~>みたいなたんぽぽを擬人化したフレーズがあったかな。ワンコーラスぐらいしか書けてなかったけど、ちゃんとAメロBメロとか設定があって、ポエムではなく歌詞として書いていました。誰にも見せないようなノートがあって、そういう歌詞っぽいものとか、使いたい言葉を綴っていたんですよ。多分そのノート、まだ実家にあると思いますけど、見せられたもんじゃないですね(笑)。

小林 僕は中学生ぐらいから言葉が好きで。同じぐらいの時期にYUIさんを好きになったので、初めての歌詞はYUIさんに歌ってほしいという想定で書きましたね。だから昔の歌詞は女性っぽいものが多い。

長屋 その頃からもう作家目線だったんだね。

小林 そう、どちらかというと。あと当時、家庭教師がたまに来ていたんですけど、その先生はまったく仕事をする気がない方で(笑)。僕の趣味に付き合って、一緒に歌詞を書いていました。

長屋 えー! めっちゃいいじゃん! 楽しそう。

小林 その先生が僕の歌詞に「ペルソナ」というタイトルをつけたことだけよく覚えています(笑)。意味は「仮面」らしいです。それから中学3年生でBUMP OF CHICKENさんを好きになって、自分も本格的にバンドをやりたいなと思ったんですよね。

―― 2019年のシングル「sabotage」で取材させていただいたときは、ほとんどの楽曲を晴子さんが作詞作曲されていましたよね。最近はメンバーみなさんが楽曲制作をされていますが、明確なタイミングはあるのでしょうか。

長屋 それこそシングル「sabotage」以降、タイアップをいただいて曲を書く機会が増えてきて、単純に私だけでは回らなくなってきたんですよ。私はやっぱり曲を書くのがすごく遅くて。それでメンバーみんな作るようになっていったんです。そうしたら壱誓の歌詞もいいし、自分とはちょっと表現のタイプが違っておもしろいし、曲によって担当を決めるような今の感じになっていきましたね。

―― お互いにそれぞれの歌詞の特徴やご自身と違うなと感じるところを挙げるとすると?

長屋 私は内面的なものを吐露する歌詞が多いんですけど、壱誓は結構ファンタジーというか、空想的だよね。あと世界観が壮大。ひとりの人間やひとつのモノを見ているというより、もっと周りを見ているイメージ。だから出てくるアイテムも私より幅広い気がします。第三者視点から物事を捉えているような印象がありますね。

小林 うん、僕は感情を表すというより、何かを言葉に置き換えるのが好きだったりしますね。やっぱり作家気質なのかもしれない。長屋の歌詞はもうとにかく長屋からしか出てこない言葉だなと思います。言いたいこと、考えていることもそうだし。毎回、すごくオリジナリティーを感じる。

長屋 感情って内に秘めているだけだと、整理がつかないことって多いじゃないですか。でも友だちに相談しているうちに、どんどん言葉が出てきたりする。私の場合は友だちに相談することがほぼないので(笑)、歌詞にすることで、「あぁ私はこう思っていたのか」って具体性を帯びてくるんですよね。私にとって歌詞はそういうツールでもあって、壱誓とはスタンスが違うからこそ、曲作りにおけるいい関係なのかなって思っています。

―― 壱誓さんはいち作家として晴子さんの歌声にはどんな特性や力があると思いますか?

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小林 声かぁ…。ちょっと時間もらってもいいですか(笑)。長屋、先に話して。

長屋 自分で思うに、「こういうもの」って断言できないような声なのかなって思います。実際にいろんな曲を歌っていて、意図的に歌い方を変えているところも、無意識に変わっちゃうところもあって。たとえばアルバムを通して聴くと、1曲ごとに違うひとの歌声のようだったりするんですよ。

小林 あぁ、その話を聞いて、王道を成立させる歌声でもあるなと思いますね。他のインタビューで少しそんな話をしたんですけど、今回はタイアップのドラマ自体がかなり王道なラブストーリーだからこそ、主題歌も王道ラブソングで。王道をやるって、覚悟がいるし、伝え方も難しいんですよね。トゲを取っていく作業に見えて、逆に大きなトゲを作っていくような作業というか。それを成立させるのは、どんな歌でも表現できる長屋の声だからじゃないかなと。

長屋 あとあんまりモノマネをされることがなくて、真似しにくい声でもあるのかな。特徴があるようでないというか。それこそ曲によって変わるし。活動初期はそういう自分の特徴のなさに悩んでいたりもしたんですけど、今は変幻自在なことこそが特徴なのかなと思っています。

―― 歌詞を書く上で、晴子さんに似合う言葉などは意識されますか?

小林 あ、逆に長屋に「似合わない言葉」をどこかに入れたいなと意識することが多いですね。今回のシングルではあまりないんですけど、たとえば「LITMUS」の<おのれ>とかね。

長屋 まぁ私はそんなに口がいいわけではないので(笑)、壱誓から出てくる言葉が似合わないかどうかはわからないんですけど…。でもたしかに壱誓の歌詞は、私とは違う口調や切り取り方だなと思いますね。あと今回「マジックアワー」で思ったのは、私は絶対に一人称を<私>にするんですよ。

小林 あ、そうだよね。今回は初めて<あたし>を使ってみました。

長屋 <あたし>は新鮮だった。なんか<私>より<あたし>のほうが自分の気持ちにより素直な印象があるというか。女の子らしさも強くなるし。たった一文字の違いなんですけどね。

小林 うん。<あたし>にすることでもうちょっと近い距離感になる感じもする。聴いている側も。

長屋 これは英語だったら<I>で解決しちゃうので、日本語ならではの素敵なところだなと思います。以前のインタビューでもお話したように、やっぱりいつかは一人称が<俺>の歌詞も書いてみたいんですよね。なかなか書けずにいるんですけど…。

―― 主人公像でいうと、晴子さんは以前「とにかくあまり自信がない。でも漠然とした理由で頑張ろうとしているガムシャラな子が多い」とおっしゃっていましたね。壱誓さんはいかがですか?

小林 主人公のあるあるかぁ…。難しいですね。メンバーの(穴見)真吾なんかは過去のデータを積み上げていくタイプなんですよ。でも自分は本当に1曲ずつ分けて考えちゃうし、1回1回リセットされちゃう。だから今までの積み重ねがないというか、毎回違う本を書いている感覚なんですよね。

長屋 ただ、壱誓はガムシャラ感はない気がする。もう答えが見えている主人公のほうが多い印象がありますね。私はその答えを見つけるためにもがいている主人公が多いんですけど。それは多分、壱誓はストーリーとか映像とかが先に浮かんでいて、それを歌詞にするからだと思います。

―― また、緑黄色社会はずっと「国民的バンドになりたい」という夢を掲げ、そのステップを確実に進め続けていますね。バンドの変化・進化につれて、歌詞面でも変わったと感じるところはありますか?

長屋 すごく感じますね。意識的に変えてきたところもあるし、成長的なところもあるし。結成当初は、むしろ理解されることが恥ずかしいところもあったんですよ。そもそも難解な歌詞が好きで、一筋縄ではいかないような曲を書くことも多かったですし。もちろんそれのよさもあるんですけど、「私たちが目指す先には、それだけじゃ行けないな」と徐々に思うようになって、より伝わりやすい言葉を意識するようになりましたね。

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