劣等感と自尊心、どちらも併せ持つ自分を詰め込んだニューアルバム!

 2023年5月17日に“山本彩”がニューアルバム『&』をリリースしました。今作には、すでにリリースされているシングル曲に加え、未発売曲「ラメント」他、新曲2曲を含む全12曲が収録されております。インタビューでは、新曲「劣等感」と「Bring it on」のお話を中心に、歌詞についてのお話をじっくりとお伺いしました。ちっちゃいことを気にしなくなり、包み隠さず言葉を綴りたい今のマインドだからこそ、曲という形で消化できた想いとは…。自己肯定感が低い方、どうしたら自尊心を持てるかわからない方、ぜひ歌詞と併せて、山本彩の想いを受け取ってください。
(取材・文 / 井出美緒)
Bring it on作詞・作曲:山本彩OK,Bring it on 怖いものなんてない 全ては私の思い通りI'm gonna do it. 余裕で勝利 進んで行く限り失敗はない
その身に宿らせてエフィカシー さぁ、まだ始まったばかり
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「どう思われるかより、私は今これを伝えたいんだ」という自我が強くなってきた。

―― 彩さんが最初に音楽に心を動かされた記憶というと何が浮かびますか?

パッと浮かぶのは、宇多田ヒカルさんの「Automatic」を聴いたときですね。すごく感動して、ちゃんと曲を聴き込んで自分でも歌っていたのを覚えています。

あと初めて自分の意思でCDを買った松浦亜弥さんの存在も大きいです。当時はただ、「あややかわいいなぁ。いい歌だなぁ」と思っていたんですけど、大人になって、自分がアーティストとして音楽をやる身になって改めて、「アイドルというひと言では表現しきれない、素晴らしい音楽家なんだ」と感じましたね。

photo_01です。

―― 人生でいちばん最初に書いた歌詞って覚えていますか?

小学校高学年からバンドをやっていたんです。そのメンバーの子と、「ちょっと書いてみる?」みたいな感じで歌詞になることを想定しつつ、それっぽいものを作って見せ合いっこしていたのが最初だと思います。花の歌とか(笑)。ちゃんと歌になったものでいうと、「モノクロmap」っていう曲ですかね。

その頃の歌詞からもう今の私そのものというか。根底にあるものは変わっていない気がします。フィクションのラブソングとか、そういうものよりかは、「今、自分が置かれている状況をどう変えていくか」みたいな自分軸な歌詞が多かったですね。

―― そしてNMB48に加入後、アイドルとして活動しながら2016年にソロシンガーソングライターとしてデビューされました。当時は恋愛禁止だったり、グループのなかでのイメージがあったり、歌詞を書くのがより難しかったのではないでしょうか。

すごく難しかったです。どこまで書いていいのか、聴き手にどう捉えられるか、大きな不安要素でした。とくにラブソングなんか、当時はインタビューに答えるのも大変で。でもアルバムをリリースするごとに徐々に自分を出せるようになっていって。以前は、複雑な構図の曲が多かった気がするんですけど、最近はわりとストレートにパンチのある言葉選びをするようになってきたのも、より私らしいなと思います。

―― ちなみにNMB48楽曲の作詞は秋元康さん。ソロ楽曲は作詞家さんが歌詞を手掛ける場合と、ご自身が書かれる場合がありますよね。歌うときマインドの違いなどはありますか?

まったく異なりますね。まず自分で書いた歌詞はもう私そのもので歌います。そしてNMB48では、主人公を自分に重ねながら、「これは私の歌だ」と思いながら歌うこともあれば、その主人公を演じる感覚のときもあり。あるいは人間ではない場合もあり。曲ごとにいろんな自分になれる気がしていました。

山本彩のソロ楽曲を提供していただく場合もそれに似たところはあります。ただ、自分が書く歌詞以上に、めちゃくちゃ私の本音を書いてくださっていると感じることも多々あって。そういう曲を歌うときはより気持ちが乗ります。たとえばスガシカオさんにいただいた「メロディ」とか。歌詞を読んだとき、「どうして私のことをこんなにわかっているんだろう」と驚きました。

―― 楽曲制作前、スガさんには何かご自身のお話をされたのでしょうか。

いや、その曲のときにはまったく。きっとスガさんの長い経験でわかるんだと思います。スガさんから見た山本彩は自分自身では見ることのできないものでした。そうやって作家さんが私のために書いてくれた歌詞で気づきがあることは多いですね。

―― 彩さんには以前、歌詞エッセイも書いていただきましたね。そこに綴られていた、「“100%実体験”の作品ではなく如何に“100%実体験”っぽいリアルなフィクションを書くかを極めたい」という言葉が印象的でした。

でもそれがなかなか難しいんですよねぇ。私はわりと妄想が好きで、歌詞を書くのはその延長に近くて。軸の妄想をリアルっぽくするスキルをもっと伸ばしたいんです。

あとエッセイにも書きましたが、友だちとの会話をよくメモするんですよ。話を聞いているうちに、「え、これで曲書きたい! 書いていい?」「書いて~!」みたいなやり取りをよくしています。日常に転がりまくっている歌詞のネタを、ちゃんとキャッチしてリアルなフィクションを書きたいですね。

―― 年齢や経験を重ねるにつれて、歌詞面で変わってきたと思うところはありますか?

今回のアルバムに入れた新曲もそうですが、包み隠さず、粗削りな歌詞を書けるようになった気がします。綺麗に歌わない、荒々しい感じの言葉を書きたくて。それはいい意味で、ちっちゃいことを気にしなくなって、「なんでもありだな!」って自分が出てきたから。「どう思われるかより、私は今これを伝えたいんだ」という自我が強くなってきたタイミングだなと思います。

あと数年前の曲とかを聴くと、ちょっと恥ずかしいというか(笑)。「あの時は若かったなぁ…」とか「このワンフレーズの言い回しが若いな」とかすごく感じます。たとえばデビュー当時に書いた「彼女になりたい」なんかもかなりかわいいポップな曲なので、もうああいう歌詞は書けないだろうなって。今ならまた全然違う角度の胸キュンソングになる気がしますね。

―― また、初期の楽曲のほうが<僕>と<君>のラブソングが多かった気がします。それはNMB48時代の楽曲の影響も大きいのでしょうか。

というよりNMB48に入る前から、一人称を<僕>にしている女性アーティストの曲を聴くことがわりと多くて。自分としては<私>と<あなた>よりも肌になじんでいたんですよね。だから自然と<僕>と<君>で歌詞を書いていました。でもやっぱり「意図されているんですか?」と訊かれることが多くて。あるときから、じゃあ逆に意識的に変えてみようかなと思いまして。

―― 前作の『α』はまさに<あなた>というワードが印象的でした。

そうそう。まさに人称を意識していたタイミングです。一人称も<あたし>とか<私>とかにして、ガッツリ女の子視点の曲を書いてみようかなと。そうすると弱さとか儚さみたいなものも歌詞に表れるようになって。「追憶の光」とかわかりやすかったと思います。そうやって人称を意識して“書き分ける”ようになったのも自分の変化のひとつですね。

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