歌詞の表記はギャルマインドを大切にしています。

―― 今回、劇場版アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』の主題歌「フィナーレ。」と挿入歌「プレロマンス」を書き下ろすにあたり、何度も原作を読み返されたんですよね。

この映画ってビジュアルも本当に素敵じゃないですか。青空と海と制服を着た男女。ただ、先ほどもお話したとおり、私自身は制服デートもしたことなかったので、最初は自分とかけ離れている青春ど真ん中みたいな作品かと思ったんです。だから「ヤバいな…」と。

でも、実はセリフがすごく切なかったり、自分が欲しいものを手に入れるための犠牲があったり、みんなが幸せになるわけではなかったり。ポジティブで甘酸っぱいだけじゃない、人間の影の部分が伝わってきて。悲しみすらも綺麗に描かれている作品なんだなと。読めば読むほど、発見することがあって、感じ方も変わっていきましたね。

photo_01です。

―― 登場人物がご自身と重なるような面もありましたか?

カオルくんとあんずちゃんが主人公の物語なんですけど、ふたりとも結構、無なんですよね。あんずちゃんはより冷たい心を持っていて。でも物語が進むにつれ、自我が芽生えていくというか、どんどん人間らしさが出てくる。そのなかであんずちゃんがあるとき、「わかってないな、お前」ってセリフを言うんですよ。「私はこんなに好きなのに。全部捨ててしまってもいいのに」みたいな。そこにすごく共感しました。本当に…わかってない!

―― 力が入りましたね(笑)。

そう、私も「わかってない!」と思うことが多くて。だから「フィナーレ。」の冒頭も<君はほんとにわかってないよ>ってフレーズにしました。

―― 挿入歌「プレロマンス」は、<これが恋だとしても これが恋じゃなくても ふたりだけの世界がここにあればいい>というフレーズが、ふたりの絶妙な距離感を表しているなと感じました。

まさにその最後の3行から生まれて、歌詞を広げていきました。これは果たして恋なのか、それとも共同戦線を張っているからこそのトキメキなのか、何なのか。そういうところを歌にしたいなと。あとこの曲はアニメサイドのみなさんから、「ここからここのシーンで使いたいです」という要望があって、絵を見て声を聴きながら作らせていただいたので、テンポ感もすごく映像とマッチするかなと思います。

―― <どんな顔で伝えよう どんな声で答えよう>というサビは、伝える側にも受け取る側にもなり得る可能性を秘めていますね。

たしかに! 告白する側にもされる側にもなる! 今気づきました(笑)。でも本当に観ている側からすると、「これもうどっちも好きでしょ!?」って思うようなシーンなんですよ。歌詞内の<見えない未来にちょっと近づきたい>とか<知らないことだらけの手を握って>とかも、だんだん相手を知っていくことが怖くもあるけど、ウキウキする感覚を書きたくて。「プレロマンス」はそういういちばん楽しい時期の曲ですね。

―― eillさんは歌詞の表記にもこだわりがありますよね。たとえば<あつい風>とひらがなを使っていたり。

実は…そこはギャルマインドなんです。漢字ってかわいくないじゃないですか(笑)。

―― 文字のかわいさでしたか(笑)!

そう! <えりのシワ>も<襟の皴>って漢字にしちゃうと全然かわいくないんですよ。すごくブサイク。私自身、パッって文字を見たときにかわいくない漢字ばかりだと入りにくくなっちゃうタイプなので。歌詞の表記はギャルマインドを大切にしていますね。

―― 主題歌「フィナーレ。」は、映画のラストでどのように響いてほしいと思って作られた曲ですか?

映画自体が、自分にとって大切な何かとか、会いたくなるひとが思い浮かぶような作品なんですね。だからそうして誰かや何かを思い浮かべたあと、また次のステップで、自分のことも誰かのことも大切にしたいと思ってもらえたらいいなという気持ちで作りました。

あとは今、世の中でいろいろ悲しいことは起こっているけれど、結局はこういうピュアでまっすぐな愛が勝つんじゃないかなと私は思うので。映画を観てない方にも届いてほしいし、この時期に出せたらいいなという言葉をかき集めた歌でもありますね。

―― 先ほどもお話されていましたが、<君はほんとにわかってないよ>という冒頭が好きです。この一行で主人公像が見えてくるというか。すごく伝えたいのに、伝わらない不器用さがありますよね。

まさにそうなんです。自分自身も恋愛だけじゃなく、仕事でも、家族や友達に対しても、言えないことがすごくたくさんあって。「わかってほしいのに言えない」みたいなことってあるじゃないですか。だから<君はほんとにわかってないよ>って、いろんな状況に当てはまるかなと思って、最初にこの言葉を選びました。

―― 自分の気持ちを話していても、話せば話すほど、本当に言いたいことから離れていくこともありますし。

めちゃくちゃわかります! 喋りながらどんどん、「何言ってんだろう私!」みたいな。しかも相手は違う人間だから、まったく同じ目線で見てくれるわけでもないし。本当に言葉って難しいし、奥深いなって思います。

―― また、「フィナーレ。」はどこか寂しさが漂っている印象も受けました。まわりにはふたり以外の誰もいないような。

うんうん。フィナーレというと、パレードならいちばん盛り上がる部分ですし、全員集合!みたいなイメージがあると思うんです。でも私はこの曲で、ふたりだけのフィナーレを書きたくて。まさに他には誰もいないし、何も聞こえないからこそ、<ふたりぼっちの世界でずっと>居られる。

その<ふたりぼっちの世界>は、味気ないし、素っ気ないし、寂しいし、悲しいかもしれない。だけど、ふたりだから美しい。そういう世界すらも綺麗と思える。その感覚を頭のなかでイメージしながら曲を作りましたね。

―― 「フィナーレ。」で、とくにお気に入りのフレーズを教えてください。

ひとつは<「愛するための」 代償ならいくらでもどうぞ ただずっと側にいたい>かな。こんなこと私には絶対に言えないから。でも映画のふたりは本当にそういう感じなんです。私は、「人生の主人公は私ですので、私が悲しいことはしません」みたいなタイプで(笑)。でも一方で、すごく大切なひとに対しては、自分の時間ややりたいことを犠牲にしてしまう面もある。だから、いつか自分よりも大切な存在ができたとき、このフレーズのように思えるのかなって。

もうひとつは、最後3行の<味気ないね でもそれがね ふたりの幸せ。>ですね。このフレーズは最後に足したんです。曲を書いて、アレンジも終わってから、「なんか…足りない」と勝手に足して。「これはなんだ?」ってみんなに言われて(笑)。でも<終りのない幸せにキスをしよ>がフィナーレじゃない!と思ったんです。なんでもない一日こそが、本当の幸せなのかもしれないと。ここがいちばん好きなフレーズになったので、書けてよかったです。

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