幸せソングのなかでも、不安不安不安。

―― アルバムタイトルの『Memory』は、どのようにたどりついた言葉なのでしょうか。

まず、このアルバムに収録されているのはどんな物語かと考えたとき、僕自身の感情や体験であり、思い出や記憶を歌った曲たちだなと思って。それにふさわしい言葉として、『Memory』というタイトルが出てきました。

あと音楽って、時間が経ってから、聴いていたその当時のことを思い出したりするじゃないですか。だから、「これを聴きながらこういうことをしていたな」とか「こういう気持ちだったな」とか、このアルバム自体が聴いてくれるひとにとっての思い出になってほしいなとも思う。

それぞれが持っている思い出だったり、今はそばにいないけど、前はずっと横にいた大切なひとだったり、そういう記憶を思い出すきっかけになってくれればいいなという願いもある。改めて今、ひとつではなくたくさんの意味を持ったタイトルになったなと感じますね。

―― 右京さんとしては、このアルバムってひとつの物語ですか? それとも短編集のようなイメージですか?

photo_01です。

もちろん聴くひとによって捉え方は違うと思うんですけど、僕としてはひとつの物語ですね。明確に1本の軸に沿って、曲順を考えました。その物語をわかってくれたらいいなとも思うんですけど、このアルバムを聴いて、そのひとの感情が軽くなったり、伝わるものがひとつでもあったらいいなというのがいちばん大事なところで。自分が表現したかったことをより伝えるための曲順でもありますね。

―― ひとつの物語と考えると、1曲目「ラブストーリー」から2曲目「プラネタリウム」って、時間を遡る感じがあります。失ってしまった“現在”から“あの頃”を思い出していくというか。

まさに。実は自分のなかでは、2曲目の「プラネタリウム」が本当の物語のはじまりなんです。「ラブストーリー」はアルバムの主題歌のような存在であり、物語でいちばん伝えたい部分が詰まった曲で。このめちゃめちゃ重たい曲を受けて、「プラネタリウム」からのゾーンに入っていってもらえればと。

―― また、「ラブストーリー」には、他のアルバム収録曲内のワードが散りばめられている気がします。たとえば、<いつまでも握っていたかった糸は 赤じゃなかったんだね>の“糸”は、「ワスレナグサ」の<小指で紡いだ赤い糸>かな…とか。

そうなんですよ。これはそのとき赤だと思っていたはずの糸なんですよ。あと「プラネタリウム」で<君の最後になりたいんだ>って願っていたのが、<最後の恋を君としたかったんだ>になっていたり。やっぱりすべての物語が繋がっている感覚が僕のなかであったので、「ラブストーリー」は総まとめみたいなイメージで作っていて。かなり全曲の物語やフレーズを意識した歌詞にしてみました。

―― 「ラブストーリー」を経ての、2曲目「プラネタリウム」、3曲目「ワスレナグサ」、4曲目「君のこと」は、恋の幸せブロックです。

マルシィは幸せソングが本当に少ないですよね(笑)。幸せな歌詞を書くのが嫌とか、難しいわけではないんです。でも幸せなときって、「幸せ!」「好き!」って、単純になっちゃいがちというか。盲目になるから。幸せなふたりが歩んでいる時間は、言葉巧みに表現していく感じでもないかなと思っていて。極力、難しい言葉も使わないようにしました。

―― ただ、幸せな曲のなかでも、若干、不安要素が入ってきますね。

若干どころか…。僕なんかもうかなり不安になりますから。典型的なめんどくさいタイプなんですよ。自分に見せてくれた姿を他のひとにはあんまり見せてほしくないなとか。できれば、誰とも関わらないで、閉じ込めたいくらい…(笑)。でもそれはできないじゃないですか。自分の知らないところで、いろんなことが起こっていく。そこが本当に心配なんですよね。

―― 「プラネタリウム」に、<こんなに好きになって あとで痛い目みないかな>とありますが、まさにそんなに好きになったら失ったとき恐ろしいですね。

怖すぎます。だから僕にとって、好きになるって怖いことでもあるんですよね。好きになればなるほど、失ったときの重みが大きくなるじゃないですか。できればそこを考えずに、「好きだ!」っていけたらいいんですけど、僕はすごく考えちゃうタイプなので。幸せソングのなかでも、不安不安不安ですね。

―― 「ワスレナグサ」も<春を少しだけ僕は恐れてる>と始まりますし。

いやぁ…春って怖くないですか?

―― わかります。自分の知らない相手の姿が増えていく季節ですね。

新しい出会いもいっぱいあるし。新しい自分になっていくひとも多いし。住む場所も心境も変わったりするし。だから僕は、付き合っているひとたちは本当に、春を恐れたほうがいいと思っていて。あんまり今の恋に浮かれていると、怖いことになりますから。春という季節を軽視しすぎずに、相手を大切にしてほしいなと思いますね。

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