<過去を愛して未来に恋せよ>と、歌える自分になれてよかった。

―― アルバムタイトルの『Honey & Darling』という言葉には、どのようにたどり着いたのでしょうか。

タイトルはいちばん最後につけました。収録曲「メリーゴーランド」の歌詞に出てくる<ハニー>というワードからいろいろ考えましたね。アルバム自体、すごく重たい部分もあるからこそ、真面目すぎる堅いタイトルにならないように。意味としては、「あなたは誰かにとって特別なひとであることを忘れないでほしい」という意思表示です。というのも、自分がいてもいなくても世界はまわるけど、自分がいないといけないひとたちもいることを、休養期間に思い知ったから。メンバーもそうですし、ファンの方々もそうですし。「そうか、僕も誰かにとって特別な存在なんだ」って。だからこそ、生きようって思えたし。その気持ちや感覚って、ひとが生きていく上ですごく大切だと感じました。

だから聴いてくれるひとも今、自分にとって大切なひとがいれば、大事にしてほしい。自分を思ってくれているひとがいるなら、向き合ってほしい。いないってひとも、いつか出会うと思うし。その存在は、恋人かもしれないし、友達や音楽かもしれないし、僕たちかもしれない。そしてあのときの僕みたいに、人生崖っぷちでどうにもならない、命について考えているひとにとって、この作品自体がHoneyだったりDarlingだったり、特別な存在になればいいなと思って、このタイトルにしました。

―― アルバムがリリースされて、約1週間が経過し(取材時)、すでに多くの方からいろんな声が届いていますね。

はい、僕がいちばん届けたかったひとたちにちゃんと届いたなって。それこそ「ひかり」とかすごく感想をいただいたし。今日一日をギリギリ踏ん張っているひとに届けたかったから、そういうひとたちのひとつの救いになれた部分もあって。本当に作ってよかったなと思います。

―― KANA-BOON楽曲は以前から、「繰り返されるフレーズが中毒性になる」という魅力がありましたが、今作では中毒性を超えて、繰り返されることで祈りの強さや言葉の説得力が増してゆくような気がしました。

これは自分の歌詞の癖でもありますね(笑)。でも今回は、「このひとことでは足りないから繰り返したい」という気持ちがより強かった気がします。たとえば「Re:Pray」も<いつまでも いつまでもそこに>って何回も出てくるじゃないですか。やっぱりひとつの<いつまでも>では、僕にとっては足りなかったんですよね。

―― また、「Re:Pray」をはじめ、今作の収録曲では<思い出>というワードが多く登場しますね。

そうそう、めちゃくちゃ出てきます。僕、音楽に出会う前の人生にいい思い出ってほとんどないんです。だからこそ、音楽に出会ってそこで見つけたものは、毎回毎回「忘れたくないなぁ」って思うし、忘れないように忘れないように大事にしていて。とはいえ、たとえばライブとかだったら、いい意味で上書きされていくじゃないですか。生きていたら、思い出ってものはどんどん更新されていく。

でも、今回のアルバムに出てくる<思い出>たちは、そういうものとはちょっと違って。僕のなかで一生、更新されていかない特別なもの。二度と上書きがかなわないもの。そういう思い出があると知りました。だから一方で、更新していく思い出もより大事にしようと思うんです。これからどんどん年を取って、楽しい思い出はどんどん更新して、増やしていきたい。

―― 「ひかり」の<過去を愛して未来に恋せよ>というフレーズにも通じますね。

そうですね。自分にとって、このアルバムのなかで歌われている<思い出>たちは、もう絶対に忘れることはない。だからこそ、その思い出たちを抱えて、愛して、未来にワクワクして生きていきたいなと思う。そういう心境になれたことがよかったですね。<過去を愛して未来に恋せよ>と、歌える自分になれてよかった。

―― 個人的な好みで恐縮なのですが、「橙」についてもお伺いしたいです。

あ、いちばん暗いやつですね(笑)。

―― 唯一、あまり希望がない曲というか。希望が眩しすぎるときに、寄り添ってくれる曲だと感じました。

photo_01です。

アルバム制作途中にできた曲なんですけど、自分の知った冷たい世界のことも描かないと、って思ったんですよね。たとえば、<幸せのコーティングに溺れ 息もできないよ>とか。<この世界は幸せな人のために回る>とか。今まで当たり前に楽しめていたものが、楽しめなくなって。世界の成り立ち、世界のまわり方についていけない。そういう思いを抱いているひとにとって、いかに優しくない世界なのか。そう痛感したことを書いた曲ですね。

―― ちなみに、2019年には「オレンジ」という曲もリリースされましたが、そこで書いたものとはまったく関係はありませんか?

あー、意識しませんでしたね。あのときの<オレンジ>は、愛おしさとか温かさへの憧れでもあり、そういう感情を歌っていました。でも、同じ色なのに、同じ夕日なのに、ひとの心ひとつでこんなに見え方が違うんですね。休養期間の最初のほう、当たり前に一日が終わっていくことについていけなくて。気がつけば、時計の針が動いていて、街が<橙>に染まっている。そんな状態でした。そこらへんをいちばんリアルに描いたのが「橙」だと思います。

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