たったひとつの<never>で伝わるものが変わるんです。

―― EP『BYE』2曲目の「Divided」は、いつ頃にできた楽曲ですか?

アルバム曲をバーッて作ってみたら、最後に1曲足りないと。でも1からアレンジしていたら間に合わない。もう2~3日しか時間がない。そのときに「じゃあ今から弾き語りの曲を作る」って、2日で作り切ったんです。歌詞からメロディーから何もかも。今までピアノの楽曲を作ってきた経験があるからこそ、絶対に2日で作れると思ったし、歌詞が英語で良いのであれば、言いたいことをそのまま乗せれば成立するから。作詞の作業すら無いに等しいんですよ。素直に出てくる言葉を書いていきましたね。そうなると、その瞬間の気持ちというよりも、ずーっと培ってきた根底にある自分の考え方とか気持ちとかが出てくるじゃないですか。だからこうやって短い期間で書いた曲こそ、僕の本質になっているのかなと思います。

―― この歌詞には<And it takes too long time>というフレーズが2回出てきますが、3回目は<And it never takes too long time>となっていますね。これはどんな変化を意味しているのでしょう。

まず、サビの内容は「夜になって目を閉じると見えるものが、わたしはとても好きです」と。そして「いろんな出来事がいつもあなたを思い出させてくれる」と。これは良い意味で歌っているんですね。つまり「いつもあなたのところに戻してくれて心地が良い」という気持ちなんですよ。

―― 「あなたのところに戻ってしまう」と苦しんでいるわけではないんですね。

そう。で、その時間は“<And it takes too long time>=「すごく長く続く」”と。だから「ずーっと心地が良い時間でいられるんだよね」って歌っているんです。だけど最後はそれが“<And it never takes too long time>=「長くは続かない」”んですよ。一瞬あなたのところに戻っても、またすぐにいなくなってしまうという状況になったわけです。となると、そのあとの<Give me back Can't throw it off I'm so divided>の意味がめっちゃ切なくなる。たったひとつの<never>で伝わるものが変わるんです。それに合わせて、歌唱も変えた1曲ですね。

photo_01です。

―― 3曲目の「Little Summer」は、LAMP IN TERREN・松本大さんとのコラボ曲です。

大くんとはフェスとかで一緒になって、普通に仲が良い感じですね。ラーメン食べに行ったり。この曲を作る前は、ちょうどコロナ禍でレコーディングができない時期だったんですけど、僕はずっとコラボをやってみたくて。「この状況下だからこそ、誰かコラボしてくれるんじゃないか」と思ったわけです。そこで声をかけたのが彼でした。そしてうちでレコーディングをしましたね。

―― 歌詞はお二人の共作ですが、どのように作っていったのでしょうか。

もうメロディーはあったんですよ。それに1番の歌詞を書いて、2番だけ空っぽのまま大くんに送りました。大くんが思う夏の歌を書いてくれた感じです。あと、僕が書いた1番の<会いたいのは誰のため>ってフレーズに対し、大くんが<あぁ一体何が悲しくて>って韻を踏んできたり。

コラボはおもしろいですよ。楽しいし楽です。頭の回転を刺激してくれるから。またやりたいですね。第1弾は大くんとのこの曲で、第2弾は岡崎体育とやったので、3部作のラストを飾る曲として。藤井フミヤさんとできたらいいなぁ。「Another Orion」とか「TRUE LOVE」とか大名曲を生んでいる、シンガーソングライターの頂点ぐらいの存在だと思っているので。一緒に作れたら嬉しいですね。

―― ビッケさんは以前、「歌詞とはどんな存在ですか?」という問いに対し、「楽曲の意味を180°変えることもでき、そのまま強くもできるもの」とおっしゃっていましたが、ご自身に対してはどんな作用があると思いますか?

難しいですねー。歌詞って自分ではあるけれど、自分ではないというか。だから僕にどんな作用があるのかはわからないです。ただ、のちのち感動させられるものではあります。いつも「なんでこんなこと思いついたん?」って言っています(笑)。

―― 作詞の際のマイルールってありますか?

ルールというか、コツなんですけど、頑張らないことかな。いずれ歌詞が来るタイミングを逃さないために。

―― 思いついたらすぐにメモしたりするのですか?

いや、しないです。良い歌詞はメモをしなくても絶対に忘れないので。逆に忘れるような歌詞なら大したことないってことですね。歌詞のことは頭のなかでずーっと考えているんですよ。それは別にワードを探しているわけじゃなくて、「歌詞~」って考えている感じ。そうすると運転しているときに、ピッ!ピピピピッ!って来るの(笑)。

―― 常にピピピピッ!が来るタイミングを逃さないようにセンサーを張っておくのですね。

そうそう。常に頭をオンラインにしておく感じですね。そうしておくと、絶対にタイミングが来る。それを逃さない。

―― 9月からはツアーが始まります。『FATE TOUR 2147』というタイトルですが、2147とは何を表した数字なのでしょうか。

普通は年号で『2021』にするじゃないですか。でも東京オリンピックが延期になって、2021年にやるのに『2020』って言っているじゃないですか。あれがすごくモヤモヤするんですよ。それを自分のツアーでは起こしたくないなと思って。万が一、また延期になって『2021』って書いたのに、2022年にやることなって、タイトルを変えるのか変えないのかって話になるのは嫌だったの。それならめっちゃ未来にしてやろうと(笑)。だから2147年までは大丈夫です。ここまで未来だったらもう大丈夫でしょ!と。そういう心意気です。

―― ありがとうございました!最後に、ビッケブランカのこれからの夢を教えてください。

どこでも曲を作れるようになりたい。ここでも、箱根でも、ロスでも。長いこと「家に居ろ」って言われたから、今は「マジで居たくない」って反抗的な気持ちになっているんです。だから機材とかめちゃくちゃ買って、でっかい鞄も買ったんですよ。絶対に機材も壊れないやつ。そこに新しいパソコンも、スピーカーも、ヘッドフォンも、ケーブルも全部入れて。ポータブル電源も買った。電源すらなくていい。その鞄を背負っていれば、どこでも曲が作れる状態になって、心の安寧を保とうとしていたから。それを叶えたいですね。夢は、根無し草になることです(笑)。

~余談~

(サイン色紙を見つめながら) …これ本当は茶色い方が表だって知ってます?

―― え? 本当ですか?

本当なんですよ。白い方が裏なんですよ。「サインをお願いします」って言うときに、茶色い方を上にして渡すのが礼儀なんですって。で、もらった方が「いやいや、僕なんてものは裏で良いですから」って裏に書くというやり取りがあるんですって。だから…表に書いても良い?

―― 是非(笑)。

よし。だって「いや、僕なんて」ってキャラに合わないから。きっとみんな「なんで裏に書いてるの」って笑うでしょうよ。違うから!そっちが間違ってる!こっちが合ってる!歌ネットが合ってるんだよ!…っていう心意気で行きましょう(笑)。


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