ここだけは修正依頼が来ても、絶対に直さないと決めていました。

―― 今回のEPは全4曲の作詞・作曲を町屋さんが手がけておられますね。こんなに振り幅が大きいんだなと驚きました。

そこは意識しましたね。1曲目「Starlight」はドラマのタイアップ楽曲だったので、作品の世界観をより盛り上げるものを。2曲目の「生命のアリア」のような歌詞は、和楽器バンドとしてわりと十八番でやりやすくて。3曲目の「ブルーデイジー」は…、僕、過去を振り返ることが大好きな人間なんですね。

―― 4曲のなかでもっともしっかり“過去”と向き合った上で、未来へと進んでいる楽曲ですよね。

そう。振り返らずに進むひとと、振り返りながら進むひとといると思うんですけど、自分は後者で。僕は北海道の浦河町という田舎から出てきていて、その地元の景色を思い浮かべながら書いた曲で。この<列車>もね、昔、地元に走っていたJR日高線のことなんですよ。1両編成の。で、小学3年生からギターをやっていたから、あの頃は休日になると隣町まで40分かけて電車で行って、1弦と2弦だけ買って。すると帰りは大体、夕暮れの時間で、海も山も見えて…。でも、その電車はもう廃線になっちゃったんです。なんかそんな切ない気持ちを思い起こしましたね。ただ、そこからいろいろ経て、最終的には「それでも明日に向かっていきましょうよ」という前向きな方向にストーリーを持っていくようにしました。

―― 列車がもうないと思うと、いっそう寂しさや名残惜しい気持ちが際立ちますね。

そうなんですよ。サビに書いた<回想列車>っていうのも、もう帰る場所がないので<回送>ではなく<回想>にしたんですよね。これはこうやって補足を入れないと伝わらないところでした。

―― 4曲目「雨上がりのパレード」はどのように生まれた楽曲ですか?

photo_01です。

今回「Starlight」という曲から始まって、基本的にはその路線上で様々なシーンを切り取っているような作品にしたかったんですね。そんな雰囲気のなかでも、もっとも底抜けに明るくて前向きなものを作ろうとできたのが「雨上がりのパレード」です。これはいちばん最初にタイトルを作りました。僕は基本的にタイトルから曲を書くんですけど、今回のEPは全曲、先にタイトルを作って、そこからテーマを広げていった感じですね。

この曲って、サビ頭の<そんなふうに風のように しなやかに変わってゆくよ>というメロディーは、そんなに盛り上がらないじゃないですか。そのあとの<太陽が降り注いだ 雨上がりのパレード>が曲のピークになるところで。このいちばんカチッとハマるところに「雨上がりのパレード」というタイトルの言葉を入れて、その周りを形成していきました。

―― 「雨上がりのパレード」というピークの言葉から、歌詞を逆算していったんですね。

そうそう。その言葉を1番のサビのピークにハメることによって、2番サビの同じメロディーで<度々訪れる歓びに笑顔になるよ>という普通の歌詞が来ても、入ってきやすいと思うんですよ。1番を聴いた上で入ってくるから。そして、この曲でもっとも言いたいことって2番のサビなんですよね。とくに<あなたの胸にだって 祝福が溢れて鳴り止まない>というフレーズ。これが僕が思い描いているこの曲のイメージにいちばん近い言葉ですね。自分が変わることで、状況が変わるというメッセージというか。

―― その“自分が変わることで、状況が変わる”というメッセージは、4曲に共通しているようにも感じました。またどの曲からも“生命力”が伝わってきます。

あんまり暗いことを歌いたくないなって思ったんですよ。明るい歌を聴きたいひとのほうが多いんじゃないかなって。今この時期、せめて歌を聴いているときには元気になってもらいたかったというか。そういう気持ちで作った4曲になっていますね。

―― 1曲目の「Starlight」はフジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』の主題歌ですが、最初は“和楽器バンド”という名前を出さなかったんですよね。

そう。“和楽器バンド”という名前が強烈なので、そこで食わず嫌いされる方も多いと感じていて。でも実は僕らって音楽の幅自体はすごく広いので。あえて名前を伏せることで、フラットに主題歌を聴いてほしいなと。

―― 町屋さんは、一般的に和楽器バンドにはどんなイメージを持たれていると感じますか?

やっぱり“色物”ですかね。もともとみんな今より化粧も濃かったし。あと結局、いちばん伸びているのってデビュー時の「千本桜」なので。“和楽器バンド≒千本桜”のイメージのまま止まっちゃっているひとがすごく多いのかなって。でも掘り下げてもらうと、それだけじゃない面がたくさんある。そこを今回は知っていただきたかったんですよね。

―― 『イチケイのカラス』の主題歌を書くに当たって、ドラマサイドの方からは何かテーマやワードの希望などはありましたか?

具体的なテーマやワードはありませんでした。ただ、2番のサビでは英語が混じっていたり、若干韻を踏んでいたりするんですけど、それがドラマサイドからの要望だったんですよね。「英語」と「韻」です。だから、どこで韻を踏もうかすごく迷いました。<限り>と<1minute>とか、<Constellation>と<光の結晶>とか。でも結果やっぱり、この方式ってすごくキャッチーになるんだなって勉強になりました。

―― 歌詞としては、どのフレーズを核に曲を書き進めていったのでしょうか。

これ、歌詞をめちゃくちゃ書き直しまして。最終形態でバージョン8.6ぐらいの感じなんですよね(笑)。でもそのなかでも一文字も変わってないのが<自分の言葉そのままに 焦りや迷いも乗り越えたい>というワンフレーズ。ここだけは修正依頼が来ても、絶対に直さないと決めていました。誰しも当てはまり得る言葉だからこそ、この核は残したかったんです。

―― 個人的には1番Aメロの歌詞も素敵だなと思いました。下を向いていたら<アスファルトに芽吹く小草>の<生命の輝き>に気づき、やっと上を向き空を見ることができて、<息をして駆けだそう>と。主人公の一連の動きが伝わってくるような。

ありがとうございます。なんかこの曲では、入間みちお(竹野内 豊)と坂間千鶴(黒木華)の関係を描きたかったんですね。坂間千鶴から見た、入間みちおというテーマなんです。なのでまず、冒頭に<そばにある大切さを 気付けない日々の中で>という坂間千鶴の前提を置いて。そこから地面を見つめて、空を見つめて。そして、生活をしていると意外と「あー今、呼吸が浅いな」って思う瞬間とかあるじゃないですか。呼吸ってすごく大事だなと思っていて。だから<息をして駆け出そう>というワンフレーズで、情景描写を締めくくって。その先はダーッと意志や訴えを綴ってゆくような歌詞にしたんです。

―― 先ほど「今回のEPは全曲、先にタイトルを作った」とおっしゃっていましたが、この「Starlight」も最初に、坂間さんにとっての入間さんの存在をイメージしてつけたのでしょうか。

そうです!僕は原作も読んでいますし、台本もあらかじめすべて読ませていただいて。あの二人って最初の関係性はかなり悪かったじゃないですか。でも、坂間千鶴はだんだん入間みちおに惹かれて、インスパイアされてゆく。その様子をこの曲では表現したかったので。あと、入間みちおのやっていることって、みんなにとっての星の光というか、道標になっている気がして。そういった意味でも「Starlight」という言葉がすごくしっくり来たんですよね。

―― ドラマでは、事件で亡くなってしまった方も描かれているので、そういう魂の存在も「Starlight」という言葉に当てはまる気がしました。

そうなんです。ダブルミーニング的な捉え方もできるタイトルになったのかなと思います。ただ、主題歌を書く上で、事件やその当事者の方たちのことを考えすぎてしまうと、どうしても歌詞が暗くなってしまうんですよね。最初にボツになった歌詞なんて、めちゃくちゃ暗かったですし。だから、作品の世界観やテーマをいかに暗く見せずに伝えるかというところもすごく意識しながら、書き上げた1曲になりましたね。

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