<あれ なんだっけ>というワンフレーズがキーですね。

―― ここからはドラマ『G線上のあなたと私』主題歌として書き下ろされた新曲についてお伺いしていきます。まず「sabotage」というタイトルが、物語の内容にもピッタリですね。調べてみると、日本語と英語で違う意味があるそうで…。

そうなんですよ。私はまず他のアーティストさんの楽曲で「sabotage」という言葉に出逢いまして。調べてみたら、日本では【サボる】の語源になった言葉で、本当の意味合いとしては【暴動】とか【破壊する】というものがあると知ったんですよ。それで「おもしろい言葉だな。いつかはこのタイトルで曲にしたいな」と思っていたところに、このドラマ主題歌のお話をいただいて、まさにピッタリだなと。日本的な【サボる】という意味と、そういう自分を【壊していく】という本来の意味と、どちらも込めてダブルミーニング的な感じでつけましたね。

―― 曲を作るにあたり、何かドラマ側の方からのテーマはありましたか?

打ち合わせをした際に言っていただいたのは「何もないところから始まった主人公(也映子)が駆け上がっていくイメージで」ということですね。あと「ちょっとヘンテコな感じで」とも(笑)。でも原作を読んでいても、ドラマを観ていても思ったんですけど、也映子さんって若干、変わっているじゃないですか。ちょっとひねくれているというか。そういうところなのかな?と。

―― そこから晴子さんは、どんなふうにイメージを膨らませて書き進めていったのでしょうか。

私が原作を読んでテーマにしたいと思ったのが「空っぽ」と「前向き」の二つだったんですね。この物語は、恋人に婚約破棄されるという本当に絶望的なところから始まるわけですけど、そこから何かを始めていく也映子さんの前向きさがすごく素敵だなと思ったので。何もないところから始まったら、それ以下にはならないし、もう駆け上がっていくしかない。じゃあ“どう駆け上がっていくか”というところを曲にしたいなと、疾走感なども意識しながら作っていきました。

―― やはり『G線上のあなたと私』の登場人物のなかでは、也映子さんに一番共感できますか?

photo_01です。

ですねー。みんな魅力的なんですけどね。そもそも私は、婚約破棄されて、バイオリンを始められるというところがカッコいいなと思ったんですよ。きっと自分がそんな状況になったら、しばらく立ち直れないし、ずっと家に引きこもります(笑)。仕事も寿退社で辞めちゃった手前、恥ずかしいし、いろんなひとに合わせる顔がないって思っちゃうだろうし。でもそういうところから新しいことを始めて、自分の可能性を広げている也映子さんはすごくたくましくて、憧れますね。

―― 曲冒頭の<せーので駆け出したはずなのにどうして まるで私だけがサボタージュ>というワンフレーズは、まさに也映子さんの最初の状況そのものですね。でも聴いている自分にもどこか当てはまるところがある気がします…。

そうなんですよねぇ。きっとみんな感じたことがあるんじゃないかなと思います。とくに私自身がこのフレーズと同じ気持ちを一番強く抱いたのは、大学時代でした。高校ぐらいまでは、まぁなんとなく先生があれこれ指示をしてくれて、その通りに進むじゃないですか。でもそれ以降は急に突き放される感じがあるというか。みんな自分の意志で大切な何かを選ばなきゃいけないというか。

―― 進学、就職、結婚、転職…本当にそうですね。

大学時代、私はずっとバンドをしていて、就職するという未来は考えていなかったんですね。それに自分たちの音楽に自信がなかったわけでも、失望していたわけでもなかったんです。だけど、就職活動で動き出している周りの子たちを見たら、すごくキラキラして見えて。あれ?なんだろうこのモヤモヤは…って。まさに置いていかれているような感覚で。やっぱりそれぞれ環境が変わってくるタイミングで、自分と他の人を比べちゃうと<まるで私だけがサボタージュ>という気持ちになっちゃうんだろうなって思います。

―― また<集めてきた 好きなモノやヒト あれ なんだっけ>というフレーズもリアルです。ふいにハッと気づかされると言いますか。

そのフレーズは今の私自身も思うことなんですよ。たとえば、すごく好きなモノであるはずなのに「じゃあ、それについて語ってください」と言われたら、意外と言葉が出てこなかったり。そうすると、ちゃんとした理由なんてなかったのかなとか、実はあんまり好きじゃなかったのかなとか、そう感じる瞬間ってたくさんあって。今までの自分を否定するわけじゃないんですけど、思っていたより薄っぺらかったんだなぁって。そういう感覚が也映子さんと重なって。

―― わかります。確かに好きだったはずなのに、どうして<あれ なんだっけ>となってしまうんでしょうね。

なんでですかね。でもそれもやっぱり誰かと比べてしまうからなのかな…って思います。何かの“好き”を突き詰めているひととか、自分に芯があるひとって、すごくカッコいいじゃないですか。そして何故か、自分以外がみんなそうであるように見えちゃうんですよね。実は誰しも同じような悩みを抱えているかもしれないんですけど、そう見えてしまう。そうすると、あぁ自分の“好き”は浅いな、自分には結局何もなかったんだな、って思っちゃう気がします。

―― そんなリアルなモヤモヤを描いたAメロ、Bメロを経ての解放的なサビですが、これはどんな想いでたどりついたフレーズなのでしょうか。

Bメロ最後の<あれ なんだっけ>というワンフレーズがキーですね。逆にいろんな過去が吹っ切れたというか、空っぽな自分に気づいたからこそ「じゃあどうするか」という決意ができた瞬間でもあるんです。そして、その先にサビの<なんだか今なら 愛されるより愛したいとさえ思う>という、シンプルだけど強い言葉があるイメージなんです。今まで受け身だった物事を、ここからは自分発信にしていくという。

―― 2番サビの<追い越されながら 見つけたのは自分らしさの欠片>というフレーズも印象的です。晴子さんご自身の<自分らしさ>って、なんだと思いますか?

いや、私もまだ欠片探しの毎日ですね。こういう<自分らしさ>を探すヒントみたいな曲を出しているにも関わらず、自分もわかっていなくて。むしろわかる日なんて来るのかな?とさえ思っています。なんか<自分らしさ>って、24歳の私も、10年後、20年後も常に探し続けるものである気がしているんです。だから今ボンヤリと“これが私”と感じているものも、どんどん変わっていくんだろうなぁと思いますね。

―― そして、ラストのサビでは<私このまま消えちゃいたくない>と、はっきり意志を告げていますね。1番2番よりいっそうパワフルに感じられます。

はい!この曲は、行けるところまで駆け上がりたいと思ったんです。だから、メロディーも最後に向けてもっと上向きになるようにしたし、歌詞にも新たな意志を込めました。最後の<これが私だと 少しだけなら 今は胸を張って言えると>というフレーズは、也映子さんもそうだし、この曲を聴いてくれたみんながいつかそうなってくれればいいなと思って書きました。さっき<自分らしさ>は常に探し続けるものって言いましたけど、本当にひとパーツずつでも自信を持っていけるような人生でありたいと、私も思っています。

―― この曲の中で晴子さんが最も書けて良かったと思うフレーズを教えてください。

やっぱりサビ頭の<なんだか今なら 愛されるより愛したいとさえ思う>です。このフレーズも、自分自身に言えることで。今までは、何かをしてもらうことのほうが多い人生というか、そういう年齢だったと思うんです。でもこれからは自分が何か返していかなきゃいけないなと。恋愛でも、友情でも、家族間でも。とくに家族に対してそう感じています。今までしてもらった分、愛されるだけじゃなくて、自分から愛していきたい。今の私はそういうマインドですね。

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