山崎あおいからのQ

作詞で悩むことはありますか? 悩むのはどういった曲ですか?

あおい:私の場合、あまり関わったことのないようなひとの気持ちを描く歌詞に悩むんです。たとえば、「お父さん世代の男性目線のラブソング」とか。それでよく「幼いね」と言われたり。研究対象がない場合、どういうふうに情報を集めていらっしゃるのか知りたいです。

MEG.ME:私は本の虫で、ものすごい量の小説を読むんです。だからおじさんの恋心も、嫁に行く娘を送り出すお父さんの気持ちも、疑似体験している(笑)。自分ではない誰かの心の動きを、文章で知ることができるのが小説のいいところなんですよ。多分、映像だと難しくて。「そのとき私はこう思った」という説明はあまりないじゃないですか。役者さんの演技によるし、表情から何を読み取るかというと、結局は自分の言葉になるから。

彼方:今まで読んだ本のストックがMEG.MEさんのなかにあるんですか? それともオーダーに合わせて、新しく探して読むんですか?

MEG.ME:ストックから想像していく。今でも本はよく読むけれど、曲のために探したことはないですね。

彼方:へぇぇ! じゃあ“MEG.ME図書館”にたくさん溜まっているんだ。いいなぁ。

― 彼方さんやMEG.MEさんが悩むタイプの楽曲というと?

彼方:私は音数が多いもの。

MEG.ME:わかります。書いていてツラくなってくる。

彼方:「もう3サビ、4サビと来ているけど、何よ…終わらない…全然終わらない…」って(笑)。しかも私の場合、まず作詞するときに文字を〇とか―とか・とか記号に変換するんですよ。全体のボリューム感を絵で捉えるために。そのとき〇が多いと、「うわー!」ってなっちゃう。1曲なのに3曲分くらいの感覚になる。

MEG.ME:ラップとかも!作り始めれば楽しいんですけど、0の状態がね。一回ちょっと宙を見つめるよね(笑)。とりあえず韻を踏むところから、どんどんワードを当てていくみたいな。あと、展開が多すぎるのも難しい。どうやって物語を作っていこうか迷います。

彼方:曲によって、物語の展開が決められるパターンありますよね。でも私、そもそも言葉が多いということも苦手かも。会話のなかで、めちゃくちゃ長い文章ってないじゃないですか。だから、「普通はこんなに長い文で喋らないよな」みたいな違和感を抱いてしまって。どこで切るのか、一文で行くのか、そこも難しいですね。

MEG.ME:音数が多いと説明っぽくなりがちですよね。「だけど」とか「なのに」とかも多くなっちゃう。

彼方:そうそう。しかも同じ接続詞は1曲で1回しか使いたくない。地味な悩みだけど。

― 意外と音数が多いほうが難しいのですね。少ないほうが、思い通りのワードが入れられず難しかったりするのかと思っていました。

MEG.ME:でも言われてみると私、極端に少ないのも困るなと思います。よくあるのは、サビ頭に「〇~」って1音だけがあるケース。もう「Ah」とか「Love」とかしか入らないから、大体ワードが決まってきてしまう。毎回、「え、ここどうしよう…」と思いますね。

あおい:しかも、「サビの頭はキャッチーな覚えやすい感じで」というオーダーが来たりするので、なおさら迷いますよね。じゃあ「Yeah」か?とか。

彼方:でも破裂音も欲しい、みたいな。たしかに“サビの頭に1音問題”はありますよね。

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あおい:たとえば、ウルフルズさんとかは、「イェーイ」や「あぁ」にめちゃくちゃ感情や意味を乗せることができるじゃないですか。そうやってひと言でもアーティストのカラーが伝わるのがベストですけど、やっぱりそれは自分で作って歌うからこそできることで。

彼方:ああー、作詞家にはできないことかもしれないねぇ。

MEG.ME:その存在自体に物語があるから通用するというか。作詞家は、自分たちの物語を出さないからなおさら難しい場面は多いですよね。

― 音数が少ない場合、あるいは多い場合、打開策はあるのでしょうか。

彼方:もう…頑張るしかない(笑)。あとは、音数が多くて困る場合、3サビや4サビで、前のサビと同じフレーズを繰り返すのはOKって自分に許可したり。

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MEG.ME:あと、松井五郎さんがとある会でおっしゃっていたんですけど、「いったん完成した気持ちになることが大事」だって。たとえば、1番の歌詞ができたら、とりあえずそれを2番に貼っちゃう。1番のサビができたら、他のサビ部分にも全部貼っちゃう。これで、「もうDメロだけだ!」って、できた気になるんです。

あおい:すごくわかります。いったん埋めてしまったほうが、気持ち的に絶望せずに進められるというか。

MEG.ME:作詞ってモチベーションが大事なんですよね。終わりが見えないと、テンションが下がっていくから。

彼方:そうそう、出てこなくても、とりあえず言葉をはめてみて、あとからどんどん変えていく。なるべく止まらないほうがいい。

MEG.ME:しかも締め切りがあるので、止まる時間もない。作詞の時間って短いんですよ。

― 作詞の締め切りは平均どれぐらいなのですか?

MEG.ME:コンペの場合、多くて1週間ですかね。たまに2週間ぐらい長めにあるときは、あとから追加情報が来たりするパターンが多くて。でも、2~3日がいちばん多い。

彼方:正直、帳尻を合わせる係なんですよね。曲やアレンジに思ったより長くかかってしまい、でも納品日は決まっているような場合、最後の作詞で時間を巻いて調整しなければいけない。

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あおい:「明後日、歌入れなので」みたいな。

MEG.ME:実際に、作詞期間が2日で、「1日、空けておいてください。その日に歌入れがあって、そこで調整が入る可能性があります」みたいなことがありました。

彼方:あるある。でも逆にそういうときのほうが、追い込みでいい歌詞が書けたりするんですよね。

― そうして全力で書いた歌詞にリライト依頼も来るんですよね。それに対して、抵抗することはありますか?

MEG.ME:結果的にはすべてオーダーに応えるんですけど、ただ一度「どういう意図で書いたのか」はお伝えしてみます。あと、たとえば、依頼されたテーマで書いたのに、あとからそれが変更された場合とか。「お任せで」と言われて書いたのに、いろいろ条件が追加された場合とか。そういうことすべて含めてお仕事なので、仕方ないと納得するしかないんですけどね。先方にもいろんな事情がありますから。リライトは全然やります。ただ、抵抗する時もあります(笑)。

あおい:わかりやすくは抵抗しませんが、リライトを言われたらいったん受け止めて書き直してみて、「でもやっぱりあれ以上よくならないですよね?」と提出して、「じゃあ元のパターンで行きましょう」というケースがあったりします。ある意味、誘導しているというか(笑)。

MEG.ME:ああー、なるほど(笑)。

あおい:私はシンガーソングライターとして活動するなかで、アレンジ発注などをお願いすることも多いので、相手側のことも少しわかるんですよ。「やってみてもらったけど、もしかしたらここはこうかな?」みたいな迷いとか。だから、「気持ちはわかるけれど、しょうがないけれど、苦しいな」と思いながらリライトしていますね。

彼方:私の場合、何に対しても「OK!」という感じなんですよね。よくも悪くもこだわりがないのかもしれない。基本、記憶力が悪くて。歌詞を提出した時点で忘れる。だからリライト依頼が来ても、「ここにこういう気持ちを込めていたのに!」みたいな気持ちがなくて。「そうですか! わかりました!」って書き直して、また記憶をなくす。だから歌ネットさんを外部記憶装置としても使用させていただいています(笑)。

MEG.ME:彼方先生のスタンスを見習いたい。

彼方:いやいや、薄情でもあるかなと思いますよ。いい面もあるけれど、「これってプライド持っているのかな?」と考えたりしますし。

― 軽やかに書き直せることもまたひとつのプライドである気がします。

MEG.ME:そう思う。こだわりすぎず、どんなことでも書けるって素晴らしいですよ。私は逆に、グーッてひねり出したものが違ったとき、「ああ、どうしよう」ってなるし、ダメージは食らってしまうから。

彼方:そうか。私はまったくダメージがないから、そこは作家さんによって違うんだろうなぁ。

MEG.MEからのQ

自分のルールはありますか?

MEG.ME:最初に彼方先生が私の歌詞について、「メロディーと言葉が接着剤でくっついているかのよう」とおっしゃってくれたんですけど、そこがまさに自分ルールとして大事にしているところで。とにかく曲から聴こえてきた言葉をそのまま歌詞にする。すでに言葉は曲のなかに眠っていて、それを掘り起こすイメージなんです。だから、自分で判子を押すようには言葉を乗せないようにしていますね。

彼方:そういうこだわりは聴いていてわかるものですね。私は自分のルールって、明確に意識したことはなくて。だけど、歌詞に限らず、「言葉は凶器にもなり得ること」は常に気をつけていて、傷つけないように心がけています。あと、ポジティブで在ること。悲しいままで終わりたくなくて、少しでも希望があるようにしたい。それがオーダーから逸れるとしたら、裏に込めたり。作詞上というより、自分の人生のルールかもしれないです。

― 使わないようにしている言葉などはありますか?

彼方:いや、ネガティブな言葉というより、ネガティブな価値観を避けている感覚ですね。

MEG.ME:「死」とかも一見、ネガティブなワードだけれど、「死ぬほど好き」という表現でプラスのパワーに変わったりもするから。

彼方:そうそう。意外と表裏一体な言葉こそキラーワードになったりするので、使いどころを考えますね。