あなたがまだ生きているから、夕焼けの中。

 2019年3月6日に“KANA-BOON”がニューシングル『ハグルマ』をリリースしました。今日のうたコラムでは、そのカップリング曲「オレンジ」をご紹介。穏やかで軽快なメロディーに乗せ、日々を照らす夕焼けの情景を描いた歌詞。SNS上には、リスナーから「仕事の帰り道に聴いたら励まされた」「1日の終わりに聴きたい」といった声が多く上がっております。では、この歌に描かれているのはどのような感情なのでしょうか。

日が暮れた街をカラスが飛んでゆく
ただ阿呆とだけ鳴いて
腹が立って蹴っ飛ばした缶のしっぺ返し
汚れてしまったスニーカー
立ち止まって足元眺めて嘆いたら
また阿呆と笑われて
睨みつけてやろうと見上げてみたら
空 綺麗な夕焼け
「オレンジ」/KANA-BOON

 こうして幕を開ける歌。なんだか、あらゆるものに対して、気持ちがくさくさするときってありますよね。この日の主人公も然り。だから、普段は気にも留めないであろう<日が暮れた街をカラスが飛んでゆく>様子に視線が向かったりしたのでしょう。さらに、ただの鳴き声でさえ自分を<阿呆>とバカにする声に聞こえ、無駄に腹が立つのです。
 
 今、主人公の心はひどく歪んでしまっていることが伝わってきます。しかも、八つ当たりのように<蹴っ飛ばした缶>からは液体がこぼれ、スニーカーは汚れ、もう踏んだり蹴ったり。でもそんな感情をぶつける場所さえなく、罪も無い<カラス>を<睨みつけてやろうと見上げて>みたわけですが、そこにあったのは、思いがけない“救い”でした。

散々な日々も こんな瞬間に
やっぱりそんなに
悪いものでもないような気がしてしまう

忘れないように焼き付けて
帰り道 いつもより寄り道して
味気ない日に砂糖を振って
甘やかしてみたりして
「オレンジ」/KANA-BOON

 たとえ、誰かにバカにされた一日でも、自業自得な<しっぺ返し>を喰らった一日でも、空には平等に<綺麗な夕焼け>が広がっている。そして、その光景を目にしたことで<散々な日々>も<そんなに悪いものでもない>と思える心がまだ残っている。それは、今の負の感情を静かに焼き尽くしてくれる、優しい希望となったのではないでしょうか。

 その夕焼けを<忘れないように焼き付け>ながらの帰路では、目に映るすべての景色を丁寧に慈しんだことでしょう。先ほど、あらゆるものに苛立っていた感情とは正反対です。時には、意識して<味気ない日に砂糖を振って 甘やかしてみたり>することも大切。そんなことを実感して、主人公は穏やかに今日を終えることができたのだと思います。

日が沈む頃
誰かのもとへ帰る人の背中 眺めては
口笛吹いて ひとりの夜へ
また笑ったり泣いたり
本当はあなたと分け合いたいけど

忘れないように焼き付けた
あの頃の夕日越しの笑顔とか
情けないほど思い出してすがりついて
手を繋いでまた明日
「オレンジ」/KANA-BOON

 また、歌の終盤では<あなた>というワードが登場します。おそらくもう主人公とは別れてしまった大切な存在のひと。歌詞の<また笑ったり泣いたり 本当はあなたと分け合いたいけど>というフレーズの先には「それは叶わないから」という言葉が省略されているのがわかりますね。だから<情けないほど>思い出にすがりつくのです。<あの頃の夕日>に刻まれている<あなた>との思い出に。

最後に見たオレンジ
いままでとこれからの境界線
さよなら またこの夕日通りを並んで歩く日まで
忘れないように見上げたオレンジ
あまりに綺麗で涙が出た
くだらない日々 やるせない日々でも
悪くないと思えるのは
あなたがまだ生きているから
夕焼けの中
「オレンジ」/KANA-BOON

 どうして、主人公は歌の冒頭で<綺麗な夕焼け>に救われたのか。その理由は単に景色の美しさだけではなかったようです。夕焼けを見ると、かつて<あなた>と過ごした眩しい時間や、抱いていた感情や、並んで<最後に見たオレンジ>を思い出すから。夕焼けの中には<あなたがまだ生きて>いて、その記憶が自分の支えになり、お守りになり、希望になってくれるから。
 
 そうやってこれからもかけがえない「オレンジ」を胸に、くだらない日々を、やるせない日々を、乗り越えていくのでしょう。みなさんにも、そんな大切な思い出ありませんか? ちょっと凹み気味な帰り道。是非、KANA-BOON「オレンジ」を聴きながら<あなた>を思い出してみてください。一日の終わりには、こんな今日でも<悪くない>と思えるようになっている自分がいるかもしれません。

◆紹介曲「オレンジ
作詞:谷口鮪
作曲:谷口鮪

◆ニューシングル「ハグルマ」
2019年3月6日発売
初回生産限定盤 KSCL-3140~3141 ¥1,300+税
通常盤 KSCL-3142 ¥971+税

<収録曲>
1. ハグルマ
2. オレンジ