甘い匂いに誘われてしまう、どうしようもない心をこう例えるか!

 歌詞愛好家のみなさま。歌ネットにて、毎月お届けしている『言葉の達人』はチェックされていますか? 作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。8月は、有森聡美さんがご登場。現在、第186回を迎えております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな『言葉の達人』から、達人たちが教えてくれた“「やられた!」と思わされた1曲”を、ダイジェストでご紹介!【前編】に続く【後編】では、さだまさし、中嶋ユキノ、杉山勝彦、宮川弾、高橋優、仲宗根泉(HY)、槇原敬之、7名の回答をご堪能ください…!

<さだまさし>
石川さゆり「津軽海峡・冬景色」です。出だしの<上野発の夜行列車 おりたときから 青森駅は雪の中>という風景描写がとにかく素晴らしい。そのあとの<北へ帰る人の群れは 誰も無口で 海鳴りだけをきいている>には雪国に住む人々の心や姿が目に見え、海鳴りが聞こえ、寒さまで伝わるようです。素晴らしい作品です。

<中嶋ユキノ>
中島みゆきさん「」です。人と人が巡り会うこと、生きていくこと、繋がっていくこと、それを短い文章の中でとても繊細に描かれた楽曲だと思います。

<杉山勝彦>
Mr.Childrenの「GIFT」です。この曲は、NHK北京オリンピック・パラリンピック放送テーマソングとしてリリースされた楽曲なのですが、<降り注ぐ日差しがあって だからこそ日陰もあって そのすべてが意味を持って 互いを讃えているのなら もうどんな場所にいても 光を感じれるよ>という歌詞に感動しました。

オリンピックというと「金メダルを目指せ!」という歌詞が多くなりがちですが、勝者になれる人の数は少数で限られているけれど、人生をかけて挑戦すること、技を競うことの価値はそれだけではなくて、ある種、陰になった人にも光を感じられるということを歌っていて、その時代と当時の自分の気持ちと一致して、すごく感動して素晴らしいなと思って毎日聴いていました。

<宮川弾>
幼いころから聴こえてくる音楽にドキドキさせられてチェックすると大抵、康珍化さんの作詞でした。堀ちえみさんの「稲妻パラダイス」にでてくる<消えない陽焼け 残してあげる>という詞は、まさに消えないものをボクの心に残しています。言葉だけ見るとサディスティックなのに、メロディーと合わさるとかわいい。

歌詞に於けるこういう感覚って現代ではままあると思うのですけど、1984年のボクはテレビを凝視したまま動けませんでした。今にして思うと、堀ちえみさんの健康的なルックスもイメージとして加味したうえでの作詞なのでしょうね。もうずるいし、脱帽です。改めて読んでみて、がっつり影響を受けていることに自分でも驚いています。

<高橋優>
槇原敬之さんの「軒下のモンスター」。よく聞く“君のことが好き”的ラブソングとはひと味もふた味も違う、でも正真正銘のラブソング。孤独な愛のかたち。こういう言葉を楽曲に落とし込める技術に僕は鳥肌が立ちました。

<HY・仲宗根泉>
槇原敬之さんの「ズル休み」です。好きな人に想われない切なさを書かれているだけかと思いきや、詞の中の主人公もまた誰かに想われているんだよ。って、まるで小説のようなどんでん返しの詞にハッっとさせられました。

<槇原敬之>
aikoちゃんの「カブトムシ」。すごいなぁ~と思いますね。甘い匂いに誘われてしまう、どうしようもない心をこう例えるか!って、感動しましたね。ほかにもユーミンだったり中島みゆきさんだったり、いろんな人のいろんな歌詞に「やられた!」がありますよねぇ。そういうものに触れられるとき、至福の喜びを感じますね。


 いくつもの楽曲で、わたしたちの心を揺さぶってきた達人の心をも、揺さぶった名歌詞の数々。どんなところに「やられた!」のか、その視点や捉え方を読むのも、また面白いですよね。もちろん、9月に登場予定の“あの達人”にも“「やられた!」と思わされた1曲”を訊いておりますので、是非その回答もお楽しみに!