例えば最近ではライブの打ち上げの帰り道に

聞くことは、話すことよりも
ずっとエネルギーがいる。だけどその分、
話すための勇気を得られるんだ、と思います。
(原田マハ『本日は、お日柄もよく』より引用)


 こちらは、作家・原田マハさんの小説に綴られていた一節です。たしかに、誰かの話を聞いて、心のなかでしっかりと咀嚼・消化・吸収したものは、自分自身の言葉を構成する血肉へと変わる気がしますよね。その実感こそが『話すための勇気』になるのでしょう。そして、きっとそれは『書くため』のチカラにも通じているのではないでしょうか。
 
 つまり作詞をする際にも『聞くこと』が『書くため』の勇気になったり、アイデアの源になったりすることが多々あるのです。実際、アーティストや作詞家で“話を聞くこと”を重視している方はたくさんおります。そこで今日のうたコラムでは、歌ネットの過去インタビューから【歌詞のインスピレーション】についての回答を一挙ご紹介。彼らは『聞くこと』をはじめ、どんなことを大切にしているのでしょうか…。本日は前編です!

<槇原敬之>
主に普通に人と話しているなかからが多いですね。人っておもしろいもので、すごく良い話をしているのに自分でそれに全く気が付いてないということが多いです。なので、そこから話を膨らませたりする事は多々ありますね。

<杉山勝彦>
人との会話から得ることが多いです。歌に使える、掴みのあるフレーズは、心の声が素直に出ている生の言葉から生まれることが多いと感じています。

他にも、電車の中吊り広告や週刊誌の見出しなどから影響を受けることもあります。当然、キャッチコピーをそのままは使えないですが、例えば、「甘かったり、辛かったり」というカレーのキャッチコピーがあった時に、それを「嬉しかったり、悲しかったり」と置き換えてあげるだけで、歌詞になったりします。グッとくる、ありそうでないフレーズを作るためにそうした作為的なこともします。

<HY・仲宗根泉>
自分の経験をもとに書くことが多いです。悲しかったとき悔しかったとき、携帯に気持ちだけをバァーっと書いて、のちに詞にしていくという感じ。もしくは突然、頭の中に曲と詞が浮かんでくることも多くあります。

<高橋優>
物凄く残酷な血しぶきが沢山飛ぶようなスプラッター映画を観ていて、物語の本筋と関係ないのに、この二人がもしも愛し合ってたら…とかって想像してラブソング描いたりします。

<大原櫻子>
本、音楽、あとは友達との会話ですね!たまに、友達がポロッという言葉がすごく刺さって、良いこと言うなぁ…って思うような時ってありますよね。

以前、ある番組に知り合いのダンサーが出ていたんです。そこでその人が言っていたのが「毎日毎日この仕事を辞めたくなる。だから続けることができる」って言葉だったんです。「好きだから嫌いになれるし、好きだからツラい。そうじゃなかったら今の私はない」って。深いなぁ、かっこいいなぁ、と思いましたし、すごく共感できる部分もありました。私は毎日「辞めたい」「ツライ」と思うわけではないし、「幸せ!」と感じることもたくさんあるんですけど、“好きだからこそ嫌いになれるんだ”って言葉には、心が明るくなりました。

<Mrs. GREEN APPLE・大森元貴>
なんだろう…。友達とご飯に行って、会話をしているときに「ん?今のはちょっと違うんじゃないか?」って思ったこととか、そういう感覚は大事にしてますね。あと、本とかマンガもよく読むし、ドラマも映画も観るんですけど、そのなかのセリフで「わー素敵だなぁ」って感じたものは覚えておくようにしているかな。でもあんまりメモに書き記したりはしないんです。忘れちゃったのだとしたら、それまでの言葉だということなので。本当に自分にとって大切な言葉が残って、曲作りのときに自然とメロディーに乗って出てくるんだと思います。

<中嶋ユキノ>
私は、映画やドキュメンタリー、そして人との会話や自分が感じたことから、インスピレーションを得ています。例えば最近では、ライブの打ち上げの帰り道にバンドメンバーやスタッフの方と信号待ちをしていたんですが、その時に「『信号が変わったら』というタイトルの曲だったらどんなストーリーになるかな」という会話をしていたんです。

ある方は「信号が変わったら、隣にいる恋人と別れて別々の道を歩きだす」。ある方は「昨日仕事でやらかしてしまった失敗を、今日は繰り返さない!信号が変わったら、そこからが新しい1日の始まり」。というように、意見を交わしました。この2つの話は、同じタイトルだとしても、曲の中で描くストーリーや情景は随分と違う。そんな風にして、普段の生活の中の色んなシチュエーションを広げていったりしています。

【後編へ!】