アーティストが“歌詞面”で影響を受けたアーティストとは?前編!

夢を碾く わたしのゆめが
どなたかのゆめの地層をなしますように
(佐藤弓生)


 こちらは歌人・佐藤弓生さんの作品。【碾く(ひく)】とは、何かを切ったり削ったりすることや、ひき臼などで細かくすることを意味する言葉です。そうやって、今日もどこかで誰かが“夢を碾き”ながら生きていて、そこから生じる欠片は着々と降り積もっております。そしてその重なりがいつか<どなたかのゆめの地層をなす>ことがあるのです。
 
 たとえば“歌詞”も然り。短歌の中の【ゆめ】というワードを【言葉】に置き換えてみてください。わたしの言葉が、どなたかの言葉の地層をなしますように。そんな繋がりは、実際にあるんです。つまり、誰かの綴ってきた言葉が、誰かの“歌詞”という地層を形成するということ。そこで今日のうたコラムでは、過去の歌ネットインタビューを元に、様々なアーティストの“地層”をご紹介いたします!本日は前編!

【あなたが“歌詞”で影響を受けたアーティストは?】

<足立佳奈>
アンジェラ・アキさんですね。小学生の頃は、ふと「私は一人だなぁ」とか「今日はあんまり学校に行きたくないなぁ」とか「歌は好きだけど、将来どうしていいかわからないなぁ」とか、いろいろ考え込んで、自分に負けそうなときってたくさんあって。でもそんなときにアンジェラさんの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の歌詞に出逢ったんですよね。小学生にもわかりやすいストレートな言葉で、すごく刺さるし、素敵だなって感じて。そこから「私も頑張ろう!」って思えるようになったんです。そして、私はアンジェラさんのこの歌で励まされて変わることが出来たので、私もこういう応援歌を歌えるアーティストになりたいなと思いました。

<androp・内澤崇仁>
さだまさしさん、かな。たとえば「主人公」という曲とか結構好きで。さだまさしさんの歌詞の世界観には、小さい頃からかなり影響を受けていると思います。広い意味での愛の表現の仕方だったりとか。物語のような、小説のような、歌詞も書かれたりするし。歌って、いろいろと顔を変えられるんだなということを学ばせていただいた、最初のひとですね。

<吉澤嘉代子>
倉内太さんっていうシンガーソングライター。この人は私なんじゃないかって思うような言葉が歌詞に散りばめられていて。とくに『刺繍』ってアルバムが大好きなんですけど、インタビューの最初にお話した夢のこととか、そういうことをきっと倉内さんも考えているんだろうなって。感覚的なところなんですけど、すごく良いんですよね。

<ビッケブランカ>
ユーミンさんかな!完全に。自分で作詞法を模索していたときに、どうしてユーミンさんはこんなに歌詞が良いと言われるんだろうと思って、いろんな曲の歌詞を読んでみたんですよ。そうしたら、主人公はフラれた女の人とか、強くありたい女の人とか、人物像はわりと同じタイプが多かった。でも、物語はものすごくいろんな方向に何パターンもある。これは絶対に一人の感覚や経験ではないと思ったの。それで偶然お会いした、ユーミンさんと一緒に仕事をしたことがあるというディレクターさんに作詞法についての話を聞いたんです。

ユーミンさんは人の話を聞いて、それをすぐメモするんですって。その人がどう思ったのか、どこで待ち合わせて、どういう思い出があって、彼は何色のクーペに乗っていて、というのを全部メモして、歌詞に落とし込むんですって。自分の経験ではなくて。それを聞いて「そういう書き方もあるんだ!」って、僕も先ほどお話したストーリーテリングの作詞法を覚えたんです。情景がしっかり見えて、ストーリーが伝わってくるというところも、ユーミンさんの歌詞をすごく参考にさせてもらいました。僕の場合はユーミンさんよりも主人公がもっと自分自身に重なっているような感覚ですけど、ビッケブランカを育ててくれた方だなぁと思いますね。

<黒木渚>
村下孝蔵。「しゃぼん玉」とか「初恋」とか、「踊り子」とか、感性がぶっ飛んでいるというか、理解はできるんだけど、なんでこんな表現を思いつくんだろうって曲ばかりです。<つまさきで立ったまま 僕を愛してきた 狭い舞台の上で ふらつく踊り子>って、ちょっと無理して恋愛している感じを踊り子に重ねたり。あと<しゃぼん玉 だんだん薄くなる さみしくてとりたくなる>ってフレーズとかも、あーわかる!素敵!って思います。すごく尊敬していますね。

<忘れらんねえよ・柴田隆浩>
やっぱりミスチルとエレカシかな。俺はわりと理屈っぽい歌詞が好きで、ミスチルも理屈っぽいじゃないですか。でも理屈だけじゃないんだよなぁ…。まず、桜井さんは大体どの曲でも最初に「こういう気持ちでいるでしょう」って問い掛けてくれるんですけど、その精度と深さがハンパないんですよ。しかも桜井さんがすごいのは、そこから先の解決策もちゃんと教えてくれるところなんです。こうしたらいいよって。ものすごく美しい例えで、その希望を提示してくれるんですよ。そこが素敵すぎる。

(中略)ミスチルの歌詞は人を変える力を持っていると思います。でも、桜井さんには敵わないとかは言いたくないんだよなぁ。目標ですね。自分もそういうものを作りたい。一方で、エレカシの歌詞も大好きなんですけど、宮本さんはそんなに理屈を使わない気がするんですよね。ただひとこと「頑張れ!」って言ってるんですよ。さあがんばろう~ぜ~♪って(笑)。けど、桜井さんの歌と同じレベルで「頑張ろう!」って気持ちになるわけですよ。

そこにはやっぱり、宮本さんの誠実さとか生きてきた歴史とか、人間性を含めての表現というか。宮本さんって絶対に嘘を吐かない人だと思います。だからこそ、あんまり何もかもうまくやれているわけじゃない気がするんですよね。日常で苦しんでいる瞬間もあると思う。それでも<さあがんばろうぜ>って歌っている美しさとか説得力にすごく感動するんじゃないかな。「わかりました!宮本さんが頑張ってるんだったら、俺みたいなもんも頑張ります!」って。そういう真っ直ぐなタイプの歌も大好きです。だから桜井さんと宮本さんは俺にとっての二大巨頭だと思いますね。

<Uru>
back numberさんが好きなんですけど、とくに「青い春」の<教えられたものだけじゃ いまいち完成しないんだ>っていうフレーズが刺さりましたね。やっぱり、実践あるのみというか。いざ社会に出てみると、学校で学んだ勉強が使える部分は本当にわずかで、経験を積み重ねていくことで、自分の価値観や仕事に対する観念が出来上がってくると思うので。私もいろんな人からアドバイスや意見をいただいていて、それはもちろんすごく大事なんですけど、実践するのは自分なので、この歌詞を読んで「あぁ本当にそうだよなぁ」って感じました。

<ゴールデンボンバー・鬼龍院 翔>
B'zの稲葉さん、中島みゆきさん、あとGLAYさんもそうですね。とくに稲葉さんの歌の主人公って結構、情けない奴が多いんですよ。ソロアルバムの「台風でもくりゃいい」って曲には<自動販売機を こわして逃げた>なんて歌詞もあったりするし。なんかそこまで書けるってすごいなぁって思うんですよ。音楽で格好つけたいならそんなこと書かないじゃないですか。でも、誰だって人生で一回くらい悪いことをするときもあるという人間味を感じて、好きですねぇ。だから僕も、たとえカッコ悪くても、生々しい人間味が出ている歌詞にするということを大切にしています。

【後編に続く!】