ミスチル・桜井さんは<ダーリン>の韻の踏み方だけでも凄い。

 今回のうたコラムでは、特別企画として“山崎あおい”דリリィ、さよなら。”の対談を第1弾~第3弾に分けてお届けいたします!同じ大学の同級生であり、アーティストとしてもお互いにリスペクトし合ってきたお二人に、作詞について、ルーツの音楽について、あの名歌詞についてなどなど、じっくり語っていただきました。本日はラスト第3弾!

― ここからは、お二人に対談のため考えてきていただいた議題をテーマにしていきます。まずは【よくこんな素晴らしい韻を踏めたなと思う曲】について。

リリィ:ミスチルの“桜井和寿”さんは、前世でラッパーだったんだと思っている(笑)。桜井さんって“ダーリン”の韻の踏み方だけでも凄いんですよ。たとえば「名もなき詩」だったら<Oh darlin 君は誰>の次に<Oh darling 僕はノータリン>って続いたり。あと「しるし」のサビにも<ダーリンダーリン>ってあるじゃないですか。あれだけ素晴らしいフレーズができたら、僕ならずっと同じ<ダーリンダーリン>を使い続けると思う。

山崎:たしかに!あのメロディーに<ダーリンダーリン>ってハメただけでもう「これは決まったな」と思うもん。これ以上に上手くハマる言葉なんてないから、全部<ダーリンダーリン>で良いなって、私も思っちゃう。

リリィ:でもその先を桜井さんはやるんですよね。1番のサビでは<ダーリンダーリン>と同じメロディーに<半信半疑>、2番のサビでは<カレンダーに>、最後の大サビ前では<泣いたり笑ったり>って歌うんですよ!やばいよね。やっぱり宇多田さんもそうだけど、一流のひとほど攻め続けている。いつまでも守りに入らない。だから僕の【よくこんな素晴らしい韻を踏めたな】は桜井さんの“ダーリン”のバリエーションの多さ。

― そもそも韻って、どのように次々言葉を生み出すものなのでしょうか?

リリィ:山崎は韻って踏む?

山崎:うーん、自分の曲の場合はこだわっていなくて、韻が踏まれている歌詞に感動することもそんなに多くはないけど、アイドルへの提供曲とかだと踏みたくなるかな。そういうときには私の場合、全部“あ行”の母音のみで歌ってみたりします。そうすると違う言葉がポロッと出てきて、そのワードを芯に肉付けして…という感じですかね。

リリィ:めっちゃ勉強になる。僕は高校生のオーディション時代からずっと音楽業界の方に「君は韻を踏めないから、もっと耳障りを良くしなさい」って言われていて(笑)。未だにそれがうまくできなくて。なんでだろ、こんなにミスチルを聴いて育っているのに。僕も去年フリーになってから、ありがたいことに作家としての活動もさせていただくようになったんですけど、やっぱり誰かに提供するときに初めて韻というものを考えるようになりました。韻はかなり意識しないとダメで、自分の楽曲だと全然踏んでないと思う。

― お二人ともどうして提供曲だと、韻を意識されるのですか?

山崎:自分の曲だと「この時期にこれを歌うから意味がある」とか「この想いを伝えたい」ということが第一にあるから、それが届けば良いんですよね。でも提供の場合、想いは提供先のアーティストのものになるので、そうなると私が目指すのは「今、そのアーティストがこの曲を歌う意味があること」と「作品としてのクオリティーの高さ」で。そのクオリティーを押し上げていく要素のひとつが“韻を踏むこと”になっていくんです。

リリィ:僕も同じです。提供させていただくときには、自分の煮えたぎった想いがなくなって、引き算になっていって、すごく冷静な気持ちで曲を作ることができるんですよ。だから韻を踏んだり、耳障りを良くしたり、普段は想いが熱すぎてそこまで気が回らないところまで考えられる。でも、自分の想いを入れつつ、韻を踏みつつ、それをJ-POPに昇華できる桜井さんは、改めてすごいなぁと思いますね。

― 【グッとくる歌詞を書く職業作家】について。

山崎:すごいベタだけど「創聖のアクエリオン」を書いた“岩里祐穂”さんはすごい。

リリィ:アニソン御用達だね。<君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない>。

山崎:そう、そこ!

一万年と二千年前から愛してる
八千年過ぎた頃からもっと恋しくなった
一億と二千年あとも愛してる
君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない
「創聖のアクエリオン」/AKINO

リリィ:だよね!なんか…AメロやBメロはアニメのタイアップらしくかなり“神話的”に書いているけど、結局サビの一番おいしいフレーズは共感性が高くて、それがすごい。J-POPとアニソンの絶妙なバランスを取っているよね。

山崎:ね、難しいんだろうなぁ。こういうSFチックな歌詞を書くのって、聴くひとと距離が遠すぎても伝わらないし、日常に近すぎてもアニメの世界観がブレるし。もしこんなフレーズが書けたら「あーこれで職業作詞家になれた!」って思えるな。あとは“松本隆”さんはやっぱり素敵ですね。出てくる女の子が魅力的すぎる。可愛い。可憐。凜としている。どの曲を聴いても理想の女性が出てくる。とくに斉藤由貴さんの「青空のかけら」って曲の主人公が好きで。

型紙の通りの (優しさの糸と)
女の子なんて (さよならの針で)
望んでも無理よ (想い出を縫うの)
はみだしてしまうわ
「青空のかけら」/斉藤由貴

Ah 人一倍不幸なのは
Ah 人の二倍いつの日にか
幸福が欲しいから
「青空のかけら」/斉藤由貴

山崎:欲張りだけど、ワガママだけど、素敵なんだよなぁ。松本隆さんの曲に限らず、主人公が魅力的である歌詞は“良い歌詞”だと思う。だから私も主人公像にはわりとこだわっていて。曲を書く前にさ、主人公のストーリーとか設定って細かく作らない?

リリィ:作る作る!そこがメインの作業ってくらい。年齢設定も大事だし。

山崎:たとえば『年上の彼女にフラれた、中村倫也』みたいな(笑)。

― ご自身の作る主人公には「こういうタイプが多い」という特徴ってありますか?

山崎:う~ん…。モテないわけじゃないけど、でもなんかうまくいかない、かわいそうな女の子。

リリィ:自分じゃん。

山崎:うるさいわ(笑)。でも、絶対に美少女設定にします!美少女が主人公だと、何でも気持ちを乗せて書けるんです。とくにラブソングとか、自分が主人公だとまったくテンションが上がらない。鏡を見て「こいつがこんな可愛いこと言っても響かないわ…」とか思っちゃうから。

リリィ:うん、僕も歌の登場人物には美男美女しか出てこない想定。たとえば、去年リリースした「やさしい恋の始めかた」なんかは、すごくロマンティックなことを歌っていて、そこに自分を投影したら恥ずかしくて書けなかったと思う。あと僕の場合は大体、主人公の男が情けないですね。

山崎:自分じゃん。

リリィ:何もかもクズじゃないんですよ。ギャンブルに溺れたり、女遊びが激しかったりするわけでもない。だけどなんかだらしなくて、いつも彼女に主導権を握られているような男。

山崎・リリィ:…自分じゃん(笑)。

― 今後、新たにどのような歌詞に挑戦してみたいと思いますか?

リリィ:僕は『みんなのうた』のテーマソングみたいな曲を書きたいですね。宇多田ヒカルさんの「ぼくはくま」的な。でもどうしても“リリィ、さよなら”というアーティストはシリアスな楽曲イメージが強いので、今まで築き上げてきた世界観をもっといろんなひとに広めたいという気持ちを優先させると、まだ『みんなのうた』の道に行くのは早いなと思って、温めています。でも僕はもともと幼稚園の先生とか児童カウンセラーになりたかったので、子どもたちと一緒に歌えるような曲はいつか書きたいです。

山崎:私はエロい曲を書きたい。なんか私が書くとどうしてもまだ子供っぽくなってしまうので、大人のエロスを。

リリィ:でも絶対に俺よりは恋愛経験が多いじゃん!

山崎:いや、経験とかじゃないんだよ。

リリィ:え、ちなみに今まで“綺麗売り”してきたわけじゃなくて、まだ納得のいくエロスが書けてないってだけなの?

山崎:うん、書いても学生のエロス。なんか…ジャニーズは絶対に歌えないくらいのやつが書きたい(笑)。

リリィ:いいねぇ、聴いてみたい。ファンのひとが混乱して、寝込んじゃうんじゃない!?

山崎:寝込ませたい(笑)。

リリィ:僕は<抜け殻のコンドーム>と歌った時点で失うものはもう何もないからな。

山崎:あ、そういうのを歌うのは無理だね。あのね、生々しい単語は日常会話のなかでもあんまり発したくないから。

リリィ:直接的表現はあんまり好きじゃないもんね。セックスとか。僕はそういうのわりと好きなんですよ。でも山崎はね。

山崎:そう、安直だなって思っちゃう。だから私なりのエロい曲を書けるように精進します。

― ありがとうございました!では最後に、これからの夢を教えてください。

山崎:自分の納得できる歌詞をまだ書けていないから、書きたい。そして「書けた!」という気持ちで、年末をNYで過ごしたいです。

リリィ:NY!?でも僕も同じく自分の中にモヤモヤッとしたものがあって、新曲の手直しをしたりしているところなので、本当に納得のいく歌詞が書きたいです。たとえば「snow ~君がくれた物語~」とか「フラッシュバック」みたいな、もうこれ以上ない!という曲を今年5曲は書きたい。そして、年末をハワイで過ごしたいです(笑)。

山崎:きっと私たち、もう10年くらい穏やかな気持ちで年越しをしていないのでね(笑)。海外で花火を見ながら、晴々と過ごしたいです!


(取材・文 / 井出美緒)

◆紹介曲「名もなき詩
作詞:桜井和寿
作曲:桜井和寿

しるし
作詞:Kazutoshi Sakurai
作曲:Kazutoshi Sakurai

創聖のアクエリオン
作詞:岩里祐穂
作曲:菅野よう子

青空のかけら
作詞:松本隆
作曲:亀井登志夫

やさしい恋の始めかた
作詞:ヒロキ
作曲:ヒロキ

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