歌詞って、「恥ずかしい」のか?

 今日のうたコラムでは、作詞家・昆真由美さんによる歌詞エッセイを【前編】と【後編】でお届けいたします。歌ネットで歴代人気曲として認定されている、チャン・グンソク「淡い雪のように」や、TikTokで人気急上昇のShuta Sueyoshi「HACK」といった楽曲をはじめ、様々なアーティストの作詞を手掛けてきた彼女。
 
 そんな昆真由美さんが【前編】に続く【後編】で綴ってくださったのは、自身がよく質問される“作詞家”という一見、ミステリアスな職業についてのお話です。【『代理店系作詞家』と『身を削る系作詞家』】【作詞家はテクニックとセンスの両方が必要】【作詞家が作れる必然】3つのタイトルで明かしていただいた想い、じっくりとご堪能ください…!

~歌詞エッセイ【後編】~

◆作詞家というミステリアスな職業

「作詞家をしています」と言うとたいてい驚かれる。そしてその次によく来る質問はこうだ。「歌詞って、自分の体験を書いてるの?」さらには、「歌詞とか、恥ずかしくない?」みたいなことを言われることだってある。そんなことを言われるとこっちの方が驚いてしまう。え、歌詞って、恥ずかしいのか?

どうやら歌詞と聞くと、日記をそのまま世間に見せびらかす、みたいなことを想像する人が多いらしい。だが作詞家の仕事はその感覚とは少々異なる。

また、「歌詞を教えています」と言うとたいてい「歌詞って、教えるものなの?」と聞かれる。「歌詞は教えるものなんかじゃない」というセオリーをお持ちの方もいる。え、歌詞を学んだり教えたりするの、変なのか?

わからなくもない。作詞家という仕事は、これだけでもうなんだかミステリアスな世界。この機会に、作詞家の仕事について語ってみようと思う。

◆『代理店系作詞家』と『身を削る系作詞家』

オーダーに沿って歌詞を組み立て、幅広いジャンルの曲に対応する作詞家は『代理店系作詞家』と呼ぶと聞いたことがある。実際、広告代理店出身の大御所作詞家も少なくないので、そのイメージだろう。全体を伝わりやすく整えたり、曲に応じて言葉を選んで言い替えたり、「心の叫びをあるがまま」からは少し距離を置いた『冷静』な視点。この部分がいわゆる「テクニック」だと考える。

一方、ジャンルとしては特化してやや狭く、「心の叫びをあるがまま」歌詞に投影するタイプをここでは『身を削る系作詞家』と呼んでみよう。日記をそのまま…のイメージが強いのがこちら。伝えたい『情熱』と、その人ならではの「センス」がものを言う。

シンガーソングライターなどは後者が多いイメージがあるが、こういった視点で歌詞を見てみると、代理店系の感覚を併せ持っている人も多くいる。他のアーティストに歌詞提供をしている人などはそうだ。才能として自然にテクニックが身についている、もしくは何かしらの形で身につけてきたのだろう。

◆作詞家はテクニックとセンスの両方が必要

作詞家にくるオーダーの種類は大きく分けて二つだ。テーマがすでに決まっている場合と、決まっていない場合。テーマが決まっている場合は、センスの部分をあらかた決めてもらっているので、適度にセンスを盛り込みつつ、テクニックで整えてゆく。テーマが決まっていない場合は、センスの部分―――自分の中にある『情熱』の部分と対峙しないとならないので、これは結構しんどいときもあるが、逆にやりがいも大きい。

センスとテクニック。作詞家にはこの二つの視点が不可欠だ。「テクニック」なんて言葉を使うと、機械のように淡々と作詞をこなしているように思うかもしれないが、それだけで書けるほど歌詞の世界は甘くない。テクニックだけでは心に響く歌は書けないし、一方、センスだけでは万人に届かない。

そんな感じで、「自分が体験したことそのもの」ではなくて「自分の中にある気持ち」を乗せつつ、「歌詞を学んだり教えたり」しながら私は歌詞を書いている。

◆作詞家が作れる必然

自分が「あまりよく書けなかったな」という歌詞は、必ずしっかりとボツになる。それはそうだ。自分が良いと思わないものを他人が良いと思うわけがない。

自分が良いと思ったものを誰かが良いと思ってくれたとき、そこからはじめて歌は生まれていく。そして歌は、いろいろな人に触れながら育っていく。そして時には、作り手も想像しない育ち方をして私たちを驚かせることがある。

『流行は、いくつもの偶然が重ならないと起こり得ない』という趣旨の記事を目にしたことがある。曲がヒットするにも、たくさんの「聴き手」が必要で、そこにはたくさんの偶然が重なって、伝染してくのが想像できる。

しかし、その一番最初、作詞家や作曲家がつくるのは偶然ではなく必然。それは、その曲に対しての『最高』を提供する努力をすること。その必然がなければ、その先の偶然や流行は決して生まれない。

だから作詞家はセンスだのテクニックだの時代感だの、あらゆるものを駆使して、最高の一曲を作ろうとしてあーだこーだ悩む。

なんだかんだ言ってきたけど、
伝えたいことはひとつだけ。

歌詞が、「恥ずかしい」わけ、ないじゃないか。

<昆真由美>