28歳までは、ゴッリゴリのイタリア料理のコックさんだった。

 今日のうたコラムでは、2月に歌詞エッセイを執筆いただいた作詞家・鈴木まなかさんからバトンを受け継ぐ形で、同事務所の作詞家・渡邉シェフさんによる歌詞エッセイをお届けいたします!彼は、クラブミュージックから、歌謡曲まで幅広いジャンルに精通しており、その曲が本来持っている美しい音の響きや、言葉選びを最も重要視しているスタイルの作詞家。提供アーティストのファンやリスナーから多くの支持を集めております。

 そんな渡邉シェフさんが今回綴ってくださったのは、所属事務所『Relic Lyric,inc.』のコンセプト、そして事務所設立後の初仕事となった、アイドルグループ“わーすた”の楽曲「グレープフルーツムーン」にまつわるお話です。アルバムリリースより一足先に、この歌詞に込めた想いを是非、ご熟読くださいませ…!

~歌詞エッセイ~

お控えなすって!!!所属事務所『Relic Lyric,inc.』作詞家の渡邉シェフです!

鈴木まなかから、バトンを受け継ぐ形で、今回コラムを書かせて頂く事になりました。ちなみに事務所名は僕が考えた名前です。Relic(歴史の遺物)Lyric(詩)inc(なんか好き)。わかりやすく言えば遺跡の壁画のように後世に伝わる音楽を作れますようにとゆうのと、音楽事務所なので、響きにリズムを感じる言葉をチョイスしました。RelicのHPでロゴをクリックしたら出てくる

「10000年後のあなたへ、僕らの音は響いてますか?」

この言葉が『Relic Lyric,inc.』のコンセプトです。遠い未来ではピラミッドのようにネットを深く深く採掘してるかもしれない。そんな時にRelic Lyricが生み出した音楽が時代を越えて響くのなら、すごいロマンがあるよなぁて感じです。

さて本題ですが、そんなRelic Lyric設立後の初仕事。来たる2020年3月25日にリリース“わーすた”結成5周年記念のBESTアルバムのリード曲「グレープフルーツムーン」の制作時のエピソードや想いを綴ろうと思います。

この曲の依頼が来たのは、クリスマス前。どいつもこいつも浮かれやがって!と拗ねている僕はEazy-Eの“Merry Muthafu××in Xmasを口ずさみながらケンタかモスのどっちを食べるか熟考していた。すると、まなかちゃんからの電話が鳴った。なにかしら?と電話に出てみると「なべさん!仕事の依頼やで!」と…詳しく聞かせてもらおうかと続けてもらうと、

今回はコンペでは無くて決め打ち案件

3月に出るBESTアルバムに収録予定

ふむふむ…

かつ!リード曲!

サンタさん居るるるぅぅうう!!
さっきは乱暴なことを言ってごめんなさい!
詳細は後ほどメールで、と言うことなので急いで
帰宅しチキンをくわえて待つ…来た!

前回のシングル曲で僕とまなかちゃん共作詞の「遮二無二生きる!」に続きエモ路線でアッパーバラード。だが、感動系に寄りすぎずに力強く!遮二無二ではメンバーの今の想いを代弁するような方向性で書いたが、今回のキーポイントの1つでもある“客観性”を持たせながら、わーすたメンバーはあくまでもストーリーテラーのようなポジションで、この曲を聴いているリスナー自身の夢と重ねられるような距離感で書いて欲しいとの事だ。

その為、「グレープフルーツムーン」には一人称も二人称も出てこない。主人公はわーすたでもあり夢を追ってるすべての人達だ。

話は少し逸れるが、僕の作家名は渡邉シェフ。今年の1月に33歳になったが28歳までは、ゴッリゴリのイタリア料理のコックさんだった。5年前には、まさか自分が作詞家になっているとは思ってもなかったしなろうと思った事も無かった。

きっかけは幼稚園からの幼馴染みでもあり『Relic Lyric,inc.』のもう1人の代表でもある作曲家のHiroki Sagawa。中学、高校で一緒に“Soul-273”と言うバンドを組んでいて、ガキの遊びで書いていたくらいだ。

それが5年前の夏、さがわスタジオで歌詞に煮詰まっていたHiroki Sagawaの代りに仮歌詞を書いた事をきっかけにマネージャーを紹介してもらい、コンペに参加させて貰うと、幸か不幸か3回目でラッキーパンチが炸裂し、勘違いした僕はコックさんを辞めて今に至る。夢はときに奇想天外な場面転換をするから面白い。が、とても厳しい!

僕の座右のシーンであるアントニオ猪木氏の「出る前に負けること考える馬鹿いるかよ!」と言う言葉を胸に裸一貫出発したものの、簡単に勝てるはずも無く現実に往復ビンタ一万発喰らったのち卍固めでバッキバキにボコられた。そして奇しくも、わーすたと同じく5年目を迎えてのこの曲。想いが乗らない訳がない!

基本的に僕の作詞スタイルは、静かな真夜中に目を閉じてテーマを頭の片隅に置きながらデモを聴き、脳内PVを再生してそれを言語化する。いつもの事ながら素晴らしく綺麗な岸田さんのピアノが造る世界を言葉にして相性を探りながらメロディにはめていく。そして制作スタッフとの共同作業で何度かの修正を繰り返し、脳みそがちぎれそうになりながらイメージに近づけていく。そうしてやっと出来た歌詞。

空のほとりに立って見上げてる
あの頃よりは近いグレープフルーツムーン
手を伸ばせば掴めそうで
いつもいつも願ってそれでもまだ届かない
近づくほどに遠くて
流れ星には願わない 叶えてじゃ叶わない


まずタイトルでもある「グレープフルーツムーン」
なぜこの言葉にしたか。

僕の幼い頃、夜に車に乗ることがあるとサンルーフを開けて寝転んで空を眺めるのが好きだった。宇宙を飛んでるような気分だった。そして車は月に向かっているのに全然近くならないなぁと不思議に思っていた。この感覚が夢と重なった。

夢の途中で触れそうな場所に近づけば近づくほどに、夢を掴むことの大変さや、そこに到達出来た人の偉大さを感じる。それはとてもほろ苦くて甘酸っぱい。「叶えて」で叶うような簡単なことでは無い!それでもたまに起こる幸せな瞬間や、応援してくれている大切な人の為、なにより自分を信じ続ける限り、心が折れても薄皮一枚でも残っているのなら、たとえ届かなかったとしても本当の意味で生きることができると思う。僕自身も音楽には随分支えられてきた。

だからこの曲を聴いたどこかの誰かの力になれたなら
最高だ! 
わーすたもこの曲を聴いてくれた誰かも超がんばれ!
世界が変わるその日まで……

『世界』を変えてみたいんだ。

<渡邉シェフ>