そうだ、思い出した、この感じ初恋に似てる。

 今日のうたコラムでは、人気コーナー『言葉の達人』にもご登場いただいた作詞家・鈴木まなかさんによる歌詞エッセイを第1弾~第3弾に分けてお届けいたします。2011年、17歳にして作曲家としてメジャーデビュー。わーすた、こんどうようぢのサウンドプロデューサーを担当し、SUPER☆GiRLS、私立恵比寿中学などの作詞も手がけている彼女。
 
 そんな鈴木まなかさんが、歌詞エッセイの第1弾で綴ってくださったのは、2020年2月3日にソーシャルアイドル“notall”がリリースした新曲「2度目のハツコイは存在した」にまつわるお話。作詞作曲を手がけた彼女が、この歌を作り上げた背景、描いた主人公像とは…。みなさんにも、経験を重ね、大人になったからこその気づきって、ありませんか? 是非、じっくりとご堪能ください。

~歌詞エッセイ第1弾「2度目のハツコイは存在した」~

私は今年で25歳になる。幼少期の夢はピアニストなること。その仕事を断念してからも、ピアノを趣味程度ではあるが弾いたり、気持ちをメロディーにのせて、作詞・作曲をしたりするのも好きだった。

今まで、人並みに恋もしてきたし、かれこれ8年以上、今の仕事を辞めることなく続けている。ハタチを過ぎた頃は、たまにあるお酒での失敗や、職場で幾度となく怒られるような時期を乗り越えて、休日はのんびり親友とカフェに行き、夜になれば恋人と家で夕飯を食べるのが日課。そんな、ごくごく普通の女の子。

だけど、いつからだろう、、、あんなに大好きだったピアノと向き合う事もなく、ただ同じ日々を繰り返している。何に左右されることもなく淡々と進めていくカレンダーは、気持ち良くて、でもちょっとだけ切ない。

考えてみれば、仕事で怒られることや謝ることは、何度も経験をしたから慣れきっていたし、好きな人ができてデートをすることも、誰かに褒めてもらうことさえも慣れて、心を突き動かされる出来事はもう何年も全くと言っても良い程になくなっていた。

「同時に強さを手に入れたし、これが大人になるってこと」

ー 当たり前にそう感じていた私の平凡ないつも通りの恋に、ある日突然不思議な気持ちが芽生えたー

深夜3時。右から聞こえる大きなイビキで目が覚める。間接照明が暗めのオレンジで照らす8帖の寝室。よく見ると口をうっすらと半開きにして寝ている。

「今日はいつもより疲れてるのかな?」そんな事を考えながら、普通に聞いたら煩わしい音と、いつにも増して少し間抜けな寝顔を眺めていたら、彼は眠りながら私の指を優しく握った。

その時、私は心臓を握られているような、少しチクッとするような、くすぐったいような、不思議な感覚に襲われた。そして理由もわからず、ちょっとだけ溢れてきた涙を親指で軽く拭っていた。

本当に突然だった。その瞬間から、当たり前だったはずの景色全てが特別に映るようになった。

まるで遥か昔初めて見た虹を、同じ場所から見たみたいに。むしろ今のほうがあの時見た虹よりも、何倍も儚くて綺麗に思えた。…そうだ、思い出した、この感じ初恋に似てる。

だけど、初恋とは何かが違う。だって何度キスを重ねても慣れることがない。それどころか数を重ねる度に愛おしさが増していく。この歳にして、こんなにも些細な事で嬉しくなったり、心配になる、そんな自分に戸惑った。

今までは耳にも留めなかったラブ・ソングも、毎日通る道の隅に咲く小さな花も、いつだって見上げれば光っている星も、きっと何万回も呼ばれてきたはずの私の名前も、涙が出そうなほどに美しくなった。

あなたは“優しく握る指の温度”それだけで、私のセカイを変えた。

「きっと、これは2度目のハツコイ…」

この想いを忘れたくない。私は数年ぶりにピアノと向き合い、音楽を作った。

<鈴木まなか>

◆紹介曲「2度目のハツコイは存在した」/notall
作詞:鈴木まなか
作曲:鈴木まなか・馬場遼太郎

★鈴木まなか
『言葉の達人』登場回