“恋愛セミナー”じゃなくて“恋愛サークル”に近い。

言葉っていうのは、魔物だ。
人を傷つけも、励ましもする。
本やネットを目で追うよりも、
話せばなおのこと、生きた力をみなぎらせる。
この魔物をどう操るか。それは、話す人次第なのだ。
(原田マハ『本日は、お日柄もよく』より引用)


 この言葉が綴られているのは“スピーチライター”という仕事に、スポットを当てた小説です。言葉ひとつでその場の空気が変わる。誰かの人生が変わる。読めば読むほど『言葉の力』を考えさせられる物語となっております。さて、もちろん【歌詞】もまた“言葉という魔物”を操り、歌うことでいっそう“生きた力”をみなぎらせるものですよね。
 
 では、アーティストたちは一体どのような気持ちで“言葉という魔物”を操って、音楽を生み出しているのでしょうか。彼らにとって【歌詞】とはどんな存在のものなのでしょうか。今日のうたコラムでは、歌ネットの過去インタビューをもとに、様々なアーティストの『歌詞とは?』の回答をご紹介いたします。本日は前編に引き続き、後編をお届け!

<足立佳奈>
手紙を書くのと同じですね。1曲1曲それぞれに宛て名があります。たとえば「little flower」だったら、恋をしている同世代のひとへ。「ウタコク」だったら、今告白しようか迷っている女の子へ。「WE CAN!」だったら、ジュビロ磐田に関係しているみんなへ。「私へ。」だったら、私自身や、自分の進路で悩んでいる学生の子へ。必ず自分のなかに「~へ」という気持ちがあるものです。

<グッドモーニングアメリカ・金廣真悟>
“日記”っていう言葉が近いかな。自分がその時に思ったことを書くことが特に今作「inトーキョーシティ」では多かったので。その日その日、その瞬間瞬間にも必ずストーリーがあるので、自分を思い返す日記のような気がします。昔は歌詞を書くことは苦行に近かったんですけど、最近やっと歌詞を書くことが楽しいって思うようになりました。

<Rihwa>
自分と向き合うことですね。想像しながら作ったとしても自分でしかないので、歌詞を書き終わると“自分と向き合った!”っていつも思います(笑)。なんか自分と向き合うことで、どんどん昔の自分を取り戻しているような感覚になるんですよ。もしタイムマシンがあったら戻りたいと思うのは、幼稚園、小学生の頃で、その頃の自分に常に問いかけている感じはありますね。

<秦基博>

自分自身の中を深く掘り下げていく作業ですね。ひとつの物事に対して、普段はそこまで考えていないし、一方向からしか見ていなかったりするんですけど、歌詞を書くときはいろんな方面から考えていくので。「誰かにとっては違うかもしれない」とか「自分にとっても、さらに奥を覗いてみたらまだなにかあるかもしれない」とか、自分自身と向き合って、対話していくんです。あとは、曲が浮かんだときの初期衝動で見えた景色をちゃんと言葉にしていくという意味もありますね。「メロディーが呼ぶ言葉」ってよく言われますけど、そういうものがきっと自分の中にもあって。だから曲の中から“こういう世界を伝えたい”という答えを探していくような感覚です。

<黒木渚>
感情を発散させることが近いかもしれないですね。私はそれこそ、今回みたいに声を失うくらいの大きなことがない限り、基本的にあんまり日常生活の感情にブレがないんですよ。怒ったりとか、哀しんだりとか、落ち込んだりとか。それは何故かっていうと、文字で吐き出し続けてきたからなのかなって思うんです。言いたいことを明確に歌詞にして、音にして、何回歌っても大丈夫な状態になって。多分、そうやって自分の中でクリアしているんじゃないですかね。

<fumika>
私はしゃべることは好きなんですけど、しゃべりに自信はないんですよ。やっぱり思ったことって照れ臭くて言えないし、喜怒哀楽の感情をどうしても内に落としこんでしまう方なので、その感情が爆発するように歌詞を書いているんだと思います。だから、歌詞を書くことは、自分の居場所みたいなものだし、感情の吐け口ですね。

<erica>
私の歌は“恋愛セミナー”じゃなくて“恋愛サークル”に近い気がします。一緒に考えて悩んで、でも「絶対に一緒にイイ女になろうね!」みたいなね。(中略)あと私の歌詞は、あえてすごくシンプルでストレートな言葉にしているところもあって。もっとお洒落な歌詞を書くアーティストさんもたくさんいるじゃないですか。たとえば、英語と日本語を散りばめたり、愛を違うものに例えてみたり。でも私は“相手に伝えたい言葉を手紙のように書くこと”を一番大事にしているから、ありきたりな言葉になりがちだけど、そこも「距離の近い歌」を作るために優先させていますね。


 自分の居場所を作るため、自分の感情を発散させるため、自分の気持ちをより丁寧に理解し、届けるため。誰かと感情を共有するため。手紙のようにメッセージを届けるため。心に感動を届けるため。それぞれ“言葉という魔物”を操るために欠かせない大切な想いを抱いていることが伝わってきますよね。そして、その想いがそのまま『生きた力をみなぎらせる』歌に繋がっているのでしょう。
 
 この記事を読んでくださったみなさんは是非、それぞれのアーティストの想いも踏まえた上で、共感したり、感動したり、何度でも歌詞を楽しんでみてください…! 今日も新しく生み出されてゆく歌に宿っている魔物が、あなたの心のパワーになりますように。