第15回「hide with Spread Beaver」 1998年5月2日。突然過ぎた逝去から15年。もし今も生きていたなら、なんて未だに考えてしまう。

彼は鋭利な刺を持つピンク頭のバラだった。歌謡曲メロとインダストリアルロックやハードコアを融
合させる毒々しいセンスや、ビジュアル・映像のハイパーなポップ感。当時、徐々に知名度を上げ始
めたハードディクスレコーディングは、彼とコーネリアスがいなければここまで広がっていなかった
のではないか。先端にして異端。そんなやつは、今もいないのだ。

本作「Ja,Zoo(ヤズー)」は、上記の魅力を凝縮した集大成となるはずだった。「ピンクスパイ
ダー」と言う代表曲を持ち出すまでもなく、あらゆるジャンルを食い尽くし、ハードコアとポップが
破格のテンションとパワーで全力疾走する、とんでもないポップ爆弾だったはずである。制作途上で
本人がこの世を去ったため、残されたバックバンド=Spread Beaverのメンツが何とか完成まで漕ぎ
着けた「未完の傑作」。この状態でも末恐ろしい完成度である事を思うと、残念でならない。
だが、この音に漲る全能感を、僕は信じたい。今日も誰かの心の中で、ピンク頭のヤンチャ坊主は生
き続けている。
98/11/21 hide with Spread Beaver AL
 「Ja,Zoo」
 MVCH-29019

第14回「JUDY AND MARY」 「こんなハチャメチャなのかよ!」
当時、本作「THE POWER SOURCE」を聴いた感想だ。

既に解散から12年が経過したジュディマリ=YUKI・TAKUYA(Gt.)・恩田快人(Ba.)・五十嵐公太
(Dr.)。彼らの凄みとは、歌ものに真正面から取り組み、その裏で炸裂させた歪な変態性の同居にあ
る。それが凝縮された決定盤は、やはり本作だ。YUKIが歌いまくる裏で、歪なフレーズをなぞるギ
ターと暴走気味なリズム隊がスリリングなアンサンブルを繰り広げる、暴投寸前の展開。しかし、
「MIRACLE DIVING」までに築きあげたジュディマリらしさも、歌メロやパンク性能の向上という形
で同時に引き上げられているため、ギリギリ違和感が無い。実際、「くじら12号」や「HAPPY
DAYS?」等、TAKUYA作曲が大半を占める中、ハイライトである「そばかす」や「風に吹かれて」を
作ったのはバンドの首謀者・恩田なのだ。正に奇跡のバランスだったである。

一つの集大成となった本作でジュディマリは完成し、方向性をも見失う事となる。その後数多現れた
フォロワー達も、本作の衝撃には誰も追いついていない。
  97/03/26 JUDY AND MARY AL
  「THE POWER SOURCE」
  ESCB-1805

第13回「フィッシュマンズ」 3月は移行期だ。冬から春へ。新しい場所・人間関係へ。14年前、この宙ぶらりんな季節に、フィッ
シュマンズの佐藤伸治は天に召された。まだレゲエもダブも一般的ではなかった'90年代前半から、
フォーキーなメロディーを武器にトリップホップ的な音響までも飲み込み、後進に多大なる影響を与
えた彼ら。'96年にリリースした「空中キャンプ」は、後の評価を決定づけた歴史的傑作である。今作
の、時間が止まり文字通り宙に浮いているような曲達が表現するのは、何の変哲も無い都市生活。友
達も減っていき、思い出すと幸せなのは君の事。だけど、何かが消えていくような気がする。
「LONG SEASON」「宇宙 日本 世田谷」と音響を極めていく最初の過程でもある今作は、佐藤が
見つめた「喪失感」と生きている刹那の多幸感が丸ごとパッケージされている。「ナイトクルージン
グ」の、あの永遠に夜が続いていくような魔法の瞬間は、春という儚げで甘美な季節と酷似している
と思うのだ。この後、喪失感を死生観にまで突き詰める彼ら。もし佐藤が生きていたら、この魔法の
先に何を見たのだろうか。

今年もまた、春がやって来る。新しい旅のお供に、是非この空飛ぶ音楽を。
  09/03/25 フィッシュマンズ AL
  「空中キャンプ」
  UMCC-9011

第12回「KUWATA BAND」 現在精力的にソロ活動展開中の桑田佳祐。彼が原由子の産休によるサザン休止に際して組んだ「期間
限定バンド」が、KUWATA BANDである。人気者であったサザンでの活動とは違うものをしたいと言
う意思のもと、「デタラメロック」を標榜。「BAN BAN BAN」「スキップ・ビート」と言った傑作
を連打していくが、唯一のオリジナル・アルバムである今作は、それらを一切入れない全編英詞の挑
戦作だった。シンセの音に80年代を感じさせるものの、もろツェッペリンなリフや、桑田佳祐名義で
もあまりやらない早い縦ノリの曲があるなど、やりたい放題。その勢いは桑田本人による"意訳詞"に
も現れていて、浮気な女に振り回される男の愚痴から宇宙人に遭遇した男まで、積年の思いをぶちま
けている爆発ぶりが面白い。

確かに「洋楽の真似事に過ぎなかった」と反省の弁を述べている通り、「日本のロック・バンド」で
ある以上、やはり真価は日本語曲にこそ発揮されていると思う。しかし、彼のロックに対する愛情と
意識の高さが真っ直ぐ現れた作品として、今作は大変意義深いと思うのだ。

ある意味桑田佳祐のルーツをなぞる若気の至りを経て、本人名義の歴史が始まっていった。
  01/06/25 KUWATA BAND AL
  「NIPPON NO ROCK BAND」
  VICL-8062

第11回「黒夢」 日本ロック界の異端。それが僕にとっての黒夢である。今もって衝撃的な、あの過剰に声を震わせる
清春の歌唱法や、「飽きっぽい」と自ら言うように、初期の耽美的な世界から打ち込み多用のディス
コを経て、ハードコア・パンク化していった、ドラスティックな音楽性の変遷。そしてそのどれもが
退廃的且つポップだという事実。しかし、初期はライブで首を吊っていた彼らにとって、それは音楽
的IQの高さとコアにある暴力性を徐々に表出させただけだったのだ。

それを証明する活動停止前の到達点、それが今作「CORKSCREW」である。
あらゆる事象への(自分も含めた)どきつい批評精神。ぐしゃっとした音像で常時100メートル走の
ように突っ走る、チーターの如きテンション。パンク、スカ、歌謡曲も全て飲み込む暴力性とポップ
センスの両立。危険で怪しげなダークフィロソフィーも、文字通り「少年」のイノセンスも全て投影
させた、超知性的で野蛮でフラジャイルなパンクロック。正に90年代黒夢の集大成であり、僕にとっ
てこれは、日本ハードコア・パンクの異端にして最重要盤の一つである。

この続きはSADSの初期に継承され、復活を経た今も拡張し続ける。
     09/01/28 黒夢 AL
     「CORKSCREW」
     TOCT-95056

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