はかめき

東京ではもう桜の花が散り始めています
一斉に咲き乱れて しおれる前に散ってしまうなんて
美し過ぎるようにも思うのですが
どこか懐かしく 哀しくも感じられ 心はざわざわと揺れ動いて
はかめいてはかめいて仕方がないのです

近頃心かき乱されることが多いのは 季節のせいかもしれません
忘れていたはずのことを ふと急に思い出してしまうんです
昨日もなんとなくいたたまれない気持ちになって
真夜中にふらりと散歩にでかけ
桜並木の美しい川沿いの遊歩道を一人で歩いていました

風が騒ぐ度に はらりはらりと桜が舞い散り
そこかしこに落ちて行きました
川面に目をやると 一面が桜の花びらでうめつくされていました
ゆっくりと流されてゆく花びらを眺め続けているうちに
さまざまな想いが心の中を巡ってゆきました

桜の樹の根元には裸の男と女が眠っていると歌った人がいるそうです
そう言えば目の前の桜の花の色は
あなたの肌の色に似ている気がします
あなたとの出来事が夢なのか現なのか
僕にはもうよくわからないのです
それで言葉にすることもうまくできず いまだに戸惑い続けています

「『幸せ』とは、なるとかなりたいとか、
そういうものではなく、瞬間に感じとるもの」
そんなあなたの言葉を何度も思い出しています
止めようもなく咲き乱れ 止めようもなく散って行く
本当の気持ちを知るなんて とても恐ろしいことですね
僕は臆病な人間です

僕はこれらもいけしゃーしゃーと暮らしてゆくでしょう
桜の花はあまりにも美し過ぎます
僕はこれからもうろうろおろおろ暮らしてゆくでしょう
桜の花はあまりにも儚すぎます

でも この哀しみを忘れたくない
この胸の痛みを失くしたくない
あなたとのことだけは忘れたくないのです
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