山の湖

森の梢に 陽は落ちて
時雨を誘う 鐘の音
あゝ落葉松(からまつ)の 湖に
今年も秋は 忍びあし

影にひかれて はるばると
火を噴く山に 来はしたが
あゝ思い出の 山裾は
声なくそよぐ 風ばかり

蒼い都の 宵月や
瞼にしみる 雨の駅
あゝ人の子は 恋ゆえに
他国の空の 雲を見る

山は涯ない 野は暗い
帰らぬ夢と 決めたのに
あゝちらちらと 目がしらを
かすめて泛ぶ 君の顔

ここも一夜か 山の宿
あす待つあては ないものを
あゝ昏れなずむ 湖に
落葉の雨は またそそぐ
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