朧月心中

名前を知ってる
指先を知ってる
唇も吐息も
囁きも知ってる

許されぬままに
言い出せないままに
狂おしく激しく
離れがたくなる

星一つ見えぬ
今宵は朧月
浅はかなふたりを
塗り潰すかの様

街灯に煙る
名画座のポスター
馬車道のベンチを
涙が濡らした

今があればいい
後先など見ずに
まっさかさまだとしても
転がり出す石つぶて

このまま抱き合いながら死のうか
互いの過ちなど水に流して
心をほどいて
身体を結んで
容赦無い朝陽が昇る前に

許されぬままに
言い出せないままに
頼みもしないのに
季節は巡る

このまま抱き合いながら死のうか
さっきまでの人生は
置き去りにして
生まれ変わっても
もう一度貴方と
手放しの夜が明け切らぬ内に

名前を知ってる
指先を知ってる
頼みもしないのに
季節は巡る
ただ足早に
ふたりを置き去りにして
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