桃の花

いもうと桃子の桃の花 春に咲こうと咲き焦がれ
歩き始める靴音が 西へ九つ
ねえさん花子の花の色 海の真砂と真さ焦がれ
游ぎ始める波音が 東へ十三
ああこの地上に 命ふりそそぎ
愛らしく 咲けよ咲け 桃の花

ぼくが見ていたあの丘は 春の吹雪に吹き焦がれ
窓の柱のキズの跡 上に九つ
きみが見ていたあの丘も 海の潮瀬に瀬を焦がれ
庭の手鞠の指の跡 空へ十三
ああこの地上に 種子のふくらみて
ささやかに 咲けよ咲け 桃の花

そして世界は変わらずに 春を降らせて降り焦がれ
胸に時計の叩く音 明日へ九つ
そして宇宙は巡り行き 海の渦目を渦焦がれ
人に日向の火照る色 昨日を十三
ああこの地上よ ニ十ニの陸よ
美しく 咲けよ咲け 桃の花
×