街角の喫茶店 メニューに楡(にれ)の文字がある
苦いコーヒーの名を 楡というらしい

向こうの席では 誰かと誰かが
もう会えない 誰かの話する

楡の木の木陰では あの日の二人が今も
笑いながら戯(たわむ)れている気がする
美しい思い出が ほろ苦い記憶が
今は 胸に 甘く 優しく 過ぎてく

古い写真を見れば みんな眩(まぶ)しいものばかり
あなたが写してくれた 若かった私

泣くなよと言って 抱き寄せてくれた
嬉しいのに 涙が止まらずに

楡の木の並木道 一人で歩いて帰る
夕陽に映(は)える街並み ふと隣に
笑ってとレンズ越し あなたがいるようで
今も そんな時は 小さく 微笑む

楡の木の木陰では あの日の二人が今も
突然 真面目な顔して 目を閉じたら
息もできないほどの 長い長い刹那(せつな)
今も 胸に 甘く 匂って 苦しい
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