父さん、あのね。

瞼を閉じれば蘇る
万年日焼けの太い腕
今日もガタゴト バイクにまたがり
配達姿の割烹着

年がら年中 しかめっ面をして
口を開けば 憎まれ口
顔を合わせりゃ 喧嘩してばかり
口が悪いのは あなた譲り

もう何年の時が流れたでしょう?
あと何年のお付き合いなのでしょう?

父さん、あのね。
来月そっちへ帰るから
そしたら いつものよに喧嘩しようね

育った街は 歓楽街
今夜も男女の痴話喧嘩
小さな店の小さな灯りは
小さなわたしが育った場所

そういやあなたは あの時わたしに
一体 何を伝えたかったの?
突風の中の河原の凧揚げ
ゼェゼェ登らされた高い山

もう何年の時が流れたでしょう?
あと何年のお付き合いなのでしょう?

父さん、あのね。
来月そっちへ帰るから
そしたら いつもの塩辛ご飯で

都会に憧れ どうにかこうにか
今でもこうして歌っています
申し訳ないけど 歌はわたしが
あなたよりは少し一枚上手

もう何年の時が流れたでしょう?
あと何年のお付き合いなのでしょう?

父さん、あのね。
来月そっちへ帰るから
そしたら 聴かせて十八番(オハコ)歌

もう何年の時が流れたでしょう?
あと何年のお付き合いなのでしょう?
これからも手を取り父娘坂
ゼェゼェ登るのは懲り懲りだけど
せいぜい足腰はお気をつけて

父さん、あのね。えっとね、一言だけ

本当に今まで…ありがとう
どうぞ、これからもよろしくね
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