忘れた

60分15000円と書かれた右手の看板と
左手の薬指には安っぽく光る指輪
俺はそんな彼に何故だか憧れを抱いた
「歩けど歩けど歩かねばならぬ」との歌を思い出した

副業であかぎれた母の手とそれを馬鹿にしたクラスメイトと
顔立ちすら思い出すことのできない過去の父と
考えただけでもう何故かえずいてしまっていた
不安定、不透明、不感症なそんな過去を思い出した

いつか全て忘れた頃、無くした頃あなたと居た
あなたと見た半径1メートルの世界だけはもう譲れはできないなって
そう思えるから今日も生きれたんだ

抱き合い共に笑う子供達、泣き顔を恥じ隠す大人達
空腹と憂鬱で背けたくなる午前と何も手の付かない午後
骨の軋む音まで何故か聞こえてしまうから
いつしか届けと思い漕いでたブランコを思い出した

今まで喜ばせた人の数、今まで悲しませた人の数
幾度も考えた今についてわからずにまた今日も眠る
自分の居場所を知られたくない それでも誰かに気づいて欲しい
当ての無い場所を彷徨い、幾千の歳月は去っていた
ああ赤い実も弾けて

いつか全て忘れた頃、無くした頃あなたと聞いた
あなたと知った半径1メートルの世界だけはもう譲れはできないなって
そう思えるから今日も
いつか全て抱えてもっと離さずもっと無くさずもっと必ずとも
何年経とうたって寿命がいつ来たって忘れはしたくないなって
そう思って今日を生きていたいんだ

まだまだ
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