キスマーク/唇

あかいあかいあかいあかい 君の唇からこぼれる
ドライマティーニのしずく雨のしずくかしずく
傘をさすように人差し指差し入れたい そんな気持ちわかるかい
あかいあかいあかいあかい 僕の指先からこぼれる
インクスティックのしずく血のしずくなかんずく
紅をさすように君に塗りたい君の口紅になりたい 僕の

人差し指 君の濡れた唇をなぞり、出し入れする指、舌に爪を立てる指、
涎まみれになる指、歯茎の裏にさよならと書く指、言葉のかけら探す
指、指、指、指で、S,H,I,T…

呼吸は世界とキスすることだが 言葉はキスを中断させるだろう
声を放つためには重なった唇を離さねばならず
話すためには口火を切らなければならない
キスは詩に似ているが セックスは小説に似ているが
決してイコールではない
ペンがペニスに似ていて 指先に似ていて
しかしイコールでないのと同じように

シャルル・ド・ゴール空港いつまでも上陸できないボーイング機のようさ
君の唇かき混ぜる僕の指は君の声を探し続けるが
君は声にならない声で一呼吸嗚咽を漏らし
飲みこんだ言葉は涙になって瞳からこぼれた
コートダジュール空港いつまでも着陸できないバルビツール齧る僕の指は
グラスに浮かんだ氷の上に墜落して
コンクリートとアスファルトと泥水と一滴の血を
シェイクしてガラスのかけらを添えた
カクテルくるくるくるくるくるくるくるくる 掻き回す
「都会」ってカクテルだ いけてるだろう?

ナプキンに拭き取られた君のキスマーク
歌にならない歌で歌ってる
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