1LDK

枕に顔を押し付けて
あなたの残滓を吸い込んだ
少し溢れて頬を伝った
消えていくだけの面影と
窓際に置いたハーブが
ただ枯れるのをじっと待っている

あの日から時間が止まったままのこの部屋を
私の日常が少しずつ侵していく
捨てられない思い出
狂ったままの時計にも薄く埃が積もる
粉雪みたいに

春を待たずにこの街を出よう
手を繋いだ駅前の並木も
フェンス越しのグラウンドも
やがて色を纏うから
春を待たずにこの街を出よう
思い出から目を背けることを
凍えたままでいることを
今は忘れられそうにないけど

最後に交わした言葉は
互いの心を抉って
開いた傷はもう治せない
それでも思い出せるのは
あなたの笑う声だけ
ただ消えるのをじっと待つけど

二人では狭いな
悪態ついてたこの部屋も
一人では広すぎてどこにいればいいのか
誤摩化した想いが また嘘ついてた
苦痛じゃない 一人が好きなの
だから放っておいて

春を待たずにこの街を出よう
待ち合わせた公園のベンチも
裏通りの自販機も
やがて色は 褪せるから
春を待たずにこの街を出よう
もう二度とは戻らないあの日に
縋りついたこの心のままで
今はそれでいいから

行き場を失ったコーヒーカップも
読みかけの本も
「いつとりにくるの」なんて言えたらいいのに
全部置き去りにして

春を待たずにこの街を出よう
手を繋いだ駅前の並木も
フェンス越しのグラウンドも
やがて色を纏うから
春を待たずにこの街を出よう
思い出から目を背けることを
凍えたままでいることを
今は忘れられそうになくても
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