あなたを忘れるその前に

「レンゲは咲いたかな
つくしとりに行かなくちゃ」

春なのに雪が降る

欠けた心 庭に腰掛ける
季節をなくしたかもしれない
何十年後の私をどうか
あきらめないでね
誰にも渡さないでね

そのときはごめん
困らせてごめん
そばに居て 灰になるまで
ある晴れた日 あなたが誰か
分からなくなるその前に
私を止めて
時が今日のふたりを忘れるその前に

あなたが水をやる
花達は知ってるの
一日じゃ咲かせないものを

壊れた時計 なおせないことで
自分を責めるのかもしれない
何十年後のあなたの庭に
置いてかないでね
一緒に連れて行ってね

23時のニュース
年老いたふたつの亡骸が見つかった
明日には忘れられる
ふたりだけの幸せ

間違いと責めるでしょうか

そのときはごめん
困らせてごめん
そばにいて 灰になるまで
あなたの名を 呼べなくなる
最初の春が来る前に
あなたが止めて
無数の記憶の最後に 抱きしめて

忘れられない
忘れたくない
思い出 花びらのように
全部あげる 空が回る
まるで誰かが撒いたみたいだ
ふたりの元に
無数の記憶の種が
咲きながら
咲きながら降りしきる
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