名月赤城山

「誰方(どなた)さんも御免なさんせ。赤城颪(おろし)を子守唄に、
阪東太郎利根川で生湯を使った男一匹。
上州は佐位郡国定忠治でござんすと、たとえ仁義を切ろうとも、
今の忠治ァ、関八州に五尺の体の置き場もねぇ―」

「赤城の山も今宵限り、繩張りを捨て国を捨て、
可愛い子分の手前達とも別れ別れになる門出だ。
見ろ。雲一つねえ空の果て、どこが塒(ねぐら)か知らねえが、
雁が啼いてとんでゆく。俺とおんなじ身の上の――」

男心に 男が惚れて
意気がとけ合う 赤城山
澄んだ夜空の まんまる月に
浮世横笛 誰が吹く

あの笛の音も何故か寂しい。ありゃア日光の円蔵か、
あいつも故郷の空が恋しいのだろう……定八、鉄。別れるぞゥ。
バッタと共に草枕、当ても涯てしもねえ旅に出るのだ――」

意地の筋がね 度胸のよさも
何時か落目の 三度笠
言われまいぞえ やくざの果てと
さとる草鞋に 散る落葉

「………泣くねえ見っともねえ。風にまかせた命なら、
運ぷ天ぷで行くだけよ。流れる星を道連れに……」

渡る雁がね 乱れて啼いて
明日は いづこの 塒やら
心しみじみ 吹く横笛に
またもさわぐか 夜半の風
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