大利根月夜

あれをごらんと 指差す方に
利根の流れを 流れ月
昔笑うて ながめた月も
今日は 今日は涙の 顔で見る

「………何たる哀れよ。二十三夜の月は今も昔も変わらぬに、
変り果てる我が姿。よしや病床に伏すとはいえ、平手造酒ともあろう身が、
やくざ渡世の用心棒とは」

愚痴じゃなけれど 世が世であれば
殿のまねきの 月見酒
男平手と もてはやされて
今じゃ 今じゃ浮世を三度笠

「その浮世の義理故に、三十年の生涯の、幕を引く時が来た。
合図の鐘が鳴ったなら、長曽根虎徹よ、お前も一緒に喧嘩場の、
利根の河原へ行ってくれ」

もとを正せば 侍そだち
腕は自慢の 千葉じこみ
何が不足で 大利根ぐらし
故郷(くに)じゃ 故郷じゃ妹が 待つものを

「妹よッ。倖せに暮してくれえッ」
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