忠治

「赤城の山も今宵を限り、生まれ故郷の国定村や、
縄張りを捨て、国を捨て、可愛い子分のてめえ達とも
別れ別れになる首途(かどで)だ」

捨てた故郷の 有難さ
やけに身に沁む 日暮れ空
馬鹿な野郎と 嗤(わら)ってくんな
義理と仁義に 振り回されて
赤城追われた 無宿者

「落葉ころがる宿場のはずれ、親にはぐれた子雀よ、
そうかおめえもひとりかい。日が昏れねえうちに
早く塒(ねぐら)に帰んなよ」

身から錆(さび)とは 云いながら
切った絆の 浅はかさ
あれが忠治と もて囃(はや)されて
男侠(おとこ)稼業に 咲かせた華も
所詮落ち目の 三度笠

「加賀の国の住人、小松五郎義兼が鍛えし業物(わざもの)、万年溜めの
雪水に浄めて、俺にゃあ生涯手めえという強え味方が
あったのだ」

濡れた夜露の 草枕
郷里(くに)とおんなじ 月がでる
流転人生 賽(さい)の目(め)暮らし
意地の灯りは 消したかないが
今じゃ遥かな 上州路
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