月食

今夜の皆既月食を
娘に見せてやりたくて
先生には無理を言って
こんなところまで来ました

残される娘のための
思い出になるものだったら
他のものでもよかった
とにかく時間がなかった

二人分並べたシュラフに
包まって空を見上げて
静かに欠けてゆく月を
ただ黙って見つめていた

目の前の月が欠けてくように
残りの時間も欠けてくのかな
二人で今夜の月を見たこと
大人になっても覚えてるかな

娘は初めて目にする
天体が奏でる神秘に
言葉にもならないような
独り言を呟いてる

月が赤く鈍る瞬間
初めて存在に気づく
響き渡るような星空に
息を呑んで気圧されてた

目の前の月は欠けてゆくけど
この子の時間は満ちてくのだろう
残された時間は少ないけれど
まだまだ残せることもあるだろう

目の前の月が欠けてくように
残りの時間も欠けてくのかな
二人で今夜の月を見たこと
大人になっても覚えてるかな
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