堀部安兵衛の妻

殿のご無念 晴らすため
明日は吉良へ お討入り
その目を見れば 隠しても
判りますとも 夫婦なら
首尾(しゅび)を笑顔で 祈っても
別れがつらい 心では

「口は達者でも 父・弥平衛は老いたる身。
老いの一徹(いってつ)でどうしても討入りに行くと申します。
旦那様 足手まといになるやもしれませぬが、
父の面倒よろしゅうお願い申します。」

たすき代わりに お貸しした
赤い扱(しご)きが 縁結び
高田の馬場の 仇討ちで
二世を契った 夫婦雛
たとえ短い 月日でも
幸せでした 誰よりも

「夫婦としての歳月(としつき)は短くても
堀部安兵衛の妻として生きられたお幸は果報者にございます。
この世で叶わぬならば次の世では必ず必ず添い遂げさせて下さい 旦那様」

いまは他国の 赤穂でも
武士でありゃこそ 忠義立て
人目を避けて 小走りに
本所目指すか 影二つ
後を見送る 丸髷に
冷たく積もる 別れ雪
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