柴田淳

笑いもせず、怒りもせず、まるで人間レプリカ

 2018年10月31日に“柴田淳”が12枚目のオリジナルアルバム『ブライニクル』をリリースしました。タイトルの【ブライニクル】とは、海水中に0度以下の塩水が流れ込んだとき、つららのような形の凍結が起こる自然現象のことだそうです。これに触れた生物はすべて凍って死んでしまうことから“死のつらら”とも呼ばれているんだとか。

慣れてしまった
空虚な悲しみに

あなたには手に入れられるもの
煩わしくて 邪魔なくらい
私には手に入らないもの
ずっとずっとずっと…

あなたには手に入れられるもの
当然のように 微笑んで
私には手に入らないもの
ずっとずっとずっと…
「光る雲」/柴田淳

 そんなタイトルを背負った今作には、まさに心の中で【ブライニクル】が生じているような楽曲がいくつも収録されております。新曲「光る雲」も然り。この歌の主人公<私>の胸中には<悲しみ>という超低音塩水が流れ込み、物事を感じる部分が凍結し、ゆえにどんな負の感情も<慣れてしまった>としか思えない状態に陥っているのでしょう。

 尚、その<悲しみ>の原因は“ずっと自分には手に入らないもの”です。愛や夢、仕事、居場所、友達、恋人、生涯の伴侶、心を許せる誰か、温かな家庭、穏やかな幸せ、人それぞれ当てはまる何かがあるはず。そして、それが手に入らない<悲しみ>は月日を重ねるごとに冷たくなり、ついには心を凍結させるほどの“塩水”になってしまうのです。

剥がれ落ちてくのは
この眼に映る光
誤魔化すように伏せた

取り戻すことすら
諦めてしまったの
私はもう何処にも居ない

逆らうように
人の波の真ん中で
笑いもせず
怒りもせず
まるで人間レプリカ
「人間レプリカ」/柴田淳

 さらに、収録曲「人間レプリカ」は、いっそう心の【ブライニクル】状態が伝わってくる歌詞と言えるでしょう。もう先ほどの<私には手に入らないもの>に対する微かな欲求や希望さえ<剥がれ落ちてく>のがこの歌です。あらゆる期待=<この眼に映る光>が消えそうで、今までの気持ちを<取り戻すことすら 諦めてしまった>のが今の状態…。
 
 笑ったり怒ったりしながら日々を過ごしている人たち。そんな景色に<逆らうように>冷たい眼を伏せながら<私>は、ただ立ち尽くしております。これ以上、無駄に感情を動かしたくない。期待したくない。疲れた。だから<笑いもせず 怒りもせず まるで人間レプリカ>のように、感情を殺したまま生きているのでしょう。

隠れるように
人の波に埋もれて
不必要に 感動して
まるで人間レプリカ
「人間レプリカ」/柴田淳

 一方で<人間レプリカ>のような自分を、誰にも悟られたくない気持ちも<私>にはあるのだと思います。バレないために、時には<隠れるように 人の波に埋もれて>自分を消して、時には<不必要に 感動して>わざと人間っぽくみせて。その繰り返しのせいで、ますます自分は<まるで人間レプリカ>であると思えてしまうのではないでしょうか。

生きていても
冷たくても
どちらでもいいなら
心を奪って
ほら 奪って
抱いて抱いて抱いて抱いて

愛されぬまま いられなくて
辿り着いた心
私を返して 愛しているって
言って言って ちゃんと言って

押し付けられた愛が今日も
微笑みを求める
アナタが愛したのは
私じゃないわ
可愛い自分 はじめっから
「人間レプリカ」/柴田淳

 しかし、歌の終盤では【ブライニクル】状態だったはずの心から本音が溢れるのです。本当は<心を奪って>抱いてほしい。やっぱり<愛されぬまま>ではいられない。また<私>を取り戻して心の底から感動したい。ちゃんと<愛しているって>言ってほしい。人間らしくありたい。凍えかけた心からそんな痛切な叫びが伝わってきます。

 今は<押し付けられた愛>だとしても、結局<アナタが愛したのは>はじめっから<可愛い自分>だとしても、どうかいつかは<私>に温かい感情が流れ込み“死のつらら”が溶ける日が来ますように…。最近、心が凍りついているように感じるという方。是非、柴田淳のニューアルバム『ブライニクル』をじっくり聴いてみてください。

◆紹介曲
「光る雲」
作詞:柴田淳
作曲:柴田淳

「人間レプリカ」
作詞:柴田淳
作曲:柴田淳

◆ニューアルバム『ブライニクル』
2018年10月31日発売 
初回限定盤 VIZL-1401 ¥4,000+税
通常盤 VICL-65028 ¥3,000+税

<収録曲>
1. Multiverse
2. 君のこと
3. 光る雲
4. あなたが泣いてしまう時は
5. 夜明けの晩
6. 人間レプリカ
7. 私はここよ ~拝啓、王子様☆シーズン5~
8. 不釣り合い
9. そらし目で見つけて
10. 嘆きの丘
このトピックをシェアする
  • LINEで送る