君は僕を、まともな怖がりに変えてしまった。

 2018年5月30日に“平井堅”がニューシングル「知らないんでしょ?」と「トドカナイカラ」を同時リリース!今日のうたコラムでは、6月1日から全国公開中の映画『50回目のファーストキス』主題歌として書き下ろされた新曲「トドカナイカラ」をご紹介いたします。山田孝之×長澤まさみがダブル主演を務めるこの作品。

 天文学者になる夢を抱きながらツアーガイドとして働く主人公(山田孝之)が、交通事故により一日の記憶が翌日には消えてしまう短期記憶障害を持ったヒロイン(長澤まさみ)と出会い、一目ぼれをするところから物語は動き始めます。何があっても彼女を愛し続けようとする彼の意志、自分の障害が彼の夢を邪魔しているのではないかという彼女の苦しみ、それぞれの気持ちが交錯した末、二人が選んだ未来とは…。

昨日より君が好きなのに 昨日みたいに上手く出来ない
二人がはしゃいだ言葉はあっと言う間に
忘れてしまった

並んで座ったベンチで 手をつなごうか迷ってた
何故か君にだけ僕が伝わらない それだけ分かった
「トドカナイカラ」/平井堅

 そんな映画のエンディングを彩るのが、主題歌「トドカナイカラ」です。イントロはなく、平井堅のブレスから始まり、次々と溢れてくる言葉たち。まるで、上手く伝えることができなかった感情を、一気に吐き出しているかのようでもあります。また<あっと言う間に忘れてしまった><何故か君にだけ僕が伝わらない>というフレーズは、どんなに自分の気持ちを伝えても、思い出を重ねても、次の日には相手の記憶が消えてしまうという物語の切なさにも重なりますね。

 しかし、記憶障害に関係なく、わたしたちは“忘れてしまう”生き物です。たとえば<昨日より君が好き>であるゆえに、昨日まで自分がどんなふうに会話していたか、笑い合えていたか忘れてしまったり。たとえば<昨日より君が好き>だとしても、ケンカをすれば<二人がはしゃいだ言葉>も忘れて、別れがよぎってしまったり。ときには<君が好き>という一番大切な核さえ忘れてしまうこともあるはず。

捨てる様に 日々を生きてきたけど
君は僕を まともな怖がりに変えてしまった
「トドカナイカラ」/平井堅

 そうやって今日ごとに、瞬間ごとに、気持ちが更新されるからこそ、何度も何度も<僕が伝わらない>と感じるのでしょう。ただ、それは<君にだけ>伝わらないわけではありません。きっと<僕>は今まで、他の誰にも必死で何かを“伝えよう”なんてしてこなかったのです。でも<捨てる様に 日々を生きてきた>自分が初めて、心のどの部分も捨てずに100%“伝えたい”と思う相手に出会えた。そして<僕>は、すべてを伝えたいのに伝わらない気持ちを知る<まともな怖がりに>変わったのです。

毎日君を抱きしめても どんなに強く抱きしめても
0.1mmの不安が狭まったまま

毎日君に恋するため 毎日君を抱きしめよう
忘れるから 移ろうから 届かないから
大好きと笑って欲しい
「トドカナイカラ」/平井堅

毎日君と話をして 時々君は黙り込んで
0.1gの孤独 分け合ったまま
「トドカナイカラ」/平井堅

キレイと言った夕焼けを 慌てて僕は探すけれど
0.1秒の遅さで 色を変える
「トドカナイカラ」/平井堅

 0.1mmの不安、0.1gの孤独、0.1秒の遅さ。たったそれだけの“何か”によって、人と人は一つになることが難しくなります。というより、身体も五感も心も同じものなど存在しないのが人間ですので、完全に一つになることなどおそらく不可能。でも、100%のうち、相手と異なる<0.1>の“何か”があるから、もっと近くに…という意志が生まれるのでしょう。100%は分かり合えないから、毎日抱きしめて、話をして、恋をして<大好きと笑って欲しい>と願うのでしょう。

毎日君に恋するため 毎日君を抱きしめよう
忘れるから 移ろうから 届かないから
大好きさ 笑って欲しい
「トドカナイカラ」/平井堅

 ラストはこのように幕を閉じてゆく歌。冒頭のサビでは<大好きと笑って欲しい>と綴られていたフレーズが、最後では<大好きさ 笑って欲しい>と変化しておりますね。やはり数分の歌のなかでさえ、気持ちは更新されているのです。毎秒毎分の自分はそう簡単に「トドカナイカラ」こそ、いつだって“届けたい”という想いだけは忘れずに、大切な人を愛しながら生きてゆきたいですね…!

◆紹介曲「トドカナイカラ
作詞:平井堅
作曲:平井堅